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田園組曲 op.31

Suite Pastorale Op.31 (1875)
パウル・ラコンブ  作曲/中野二郎 編曲
Paul Lacombe  (1837.7.11 Carcassonne〜1927.6.5 Carcassonne)

 作者は19世紀後半に活躍したフランスの作曲家。パリコンセルヴァトール出身のオルガン奏者であるフランソワ・テセールに教えを受けた。同時代のG.ビゼーやC.C.サン=サーンスなどとも親交があったようである。作品には3つの交響曲、交響的序曲、劇的序曲、交響的レジェンドなどをはじめとして、他にも3つのヴァイオリンソナタ、ミサ曲、レクイエムなど多様な分野に150曲に及ぶ作品がある。交響曲第3番は1886年に作曲家協会の賞を受賞した。
 本曲は1875年の作品で、作品番号31番が付されており、比較的初期の作品のようである。管弦楽のために書かれたものであるが、中野二郎氏による編曲の的確さもあいまって、マンドリン合奏のための重要なレパートリーとして受け入れられている。戦前にはNHK名古屋管弦楽団を中野二郎氏が指揮して、原曲を演奏した記録も残っている。マンドリン合奏で演奏するに当たっては、音楽表現とアンサンブルスキルの点で相当高度な技術が要求される難曲である。外見上は表題を有する近代組曲であるが、楽式としてはソナタを用いており、次の4楽章からなる。

I. 「森の朝」 Matinee dans les bois, Allegro Moderato-Allegro giocoso 12/8 変ホ長調, ソナタ形式
 第1楽章は全曲中最も規模の大きい楽章。他の楽章の題名がオーバード、牧歌、行進曲と標題音楽ではあっても曲種の名称を由来とするものであるのに対して、本楽章の『森の朝』という題名は特に標題音楽的であると言える。3拍子系の複合拍子はPastoraleの雰囲気を意識したものであろう。楽式は概ね古典のソナタ=アレグロ形式を踏襲したものであるが、展開部に主題以外のエピソードを盛り込むことで格式ばって聴こえないように工夫されている。朝もやの中から静かに光が射し、 小鳥がさえずりはじめる様は大変美しく、一日の始まりを期待させるものと言えよう。

II. 「朝の歌」 Aubade, Allegretto 2/4 ヘ長調, 3部形式
 第2楽章は比較的単純な3部形式による規模の小さい楽章。本楽章は古典のソナタにおけるメヌエットやスケルツォの代わりに相当すると考えられる。
 オーバードとは『朝の歌』の意味で、中世のトロバドールが恋人と朝の短い別れをする歌に端を発したもので、近代管弦楽では田園詩的情緒溢れる小品によく用いられている。

III.「牧歌」 Idylle, Andante 9/8 ト短調, 展開部の無いソナタ形式
 第3楽章は9/8の柔らかな拍子に乗せられた緩徐楽章。展開部の無いソナタ形式に拠るが、第2主題は 3つの部分からなり,提示部と再現部ではその順序を変えて奏される。牧歌の名の通り、情感豊かな旋律と自在なアーティキュレーションで、しっとりと歌われるカントの楽章。

IV.「田舎風行進曲」 Marche Rustique 2/4 変ホ長調, ロンド形式
 A-B-A'-C-A''-B'-Aのやや自由な形式のロンド・フィナーレ。主題の2度目の再現はその変奏で置き換えられており、最後の再現ではそれが主題と重ねられて演奏される。Rustiqueとは田舎風という他、野趣あふれた、などの意味もあるが、それに反し非常に端正な音楽と言える。途中力強く全強奏で奏でられる部分などでは確かにRustiqueなムードもあるが、全体を通じて、抑制の効いた魅力的な旋律にあふれている。

参考文献:ニューグローヴ世界音楽大事典19(講談社)、南谷博一『マンドリン辞典』

第35回定期演奏会より/解説:Yon/Kiyota