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Ouverture Historique No.4 (2007年改訂版)

歸山 榮治
Eiji Kaeriyama (1943.5.25 Ono - )

 作者は1943年福井県大野市に生まれ、62年名古屋大学文学部入部と同時にギターマンドリンクラブに入部、一年後指揮者となった。その後中田直宏氏に作曲を学び、クラブ内外で編曲を含め多くの作品を発表してきた。またチルコロ・マンドリニスティコ・ナゴヤをはじめとして、大学・社会人のマンドリン団体を数多く指導しており、現在日本マンドリン連盟中部支部理事、東海音楽舞踊会議運営委員長をつとめる。作品は多岐に渡り、マンドリン合奏曲以外にも吹奏楽曲、邦楽曲、合唱曲、劇音楽、舞踊音楽など多くの作曲、編曲活動に携わっている。近年では中国民族音楽やアボリジニに伝承される音楽などにも造詣を深めており、海外でもその作品は紹介されている。1981年名古屋市芸術奨励賞授賞。マンドリンアンサンブル「Eschue」主宰。マンドリン合奏以外ではギター合奏に継続的な作品が書き下ろされており、現在十数曲を数えている。

 本曲は1982年に神戸大学マンドリンクラブの委嘱により作曲され、更に1984年に帰山氏を団長とする名古屋マンドリン合奏団(チルコロ)のソ連親善公演旅行のために、改作された。今回、演奏させて頂くに辺り、帰山氏に連絡を取ったところ、「デジタル化(写譜ソフトによる浄書化)した際に、改訂を行った未演奏の版があります」とのことで、帰山氏とご相談の上で「2007年改訂版」として初演させて頂くことにした。1984年改作版からの改訂箇所は40箇所程度、半分程はパーカッション(シロフォン・スネア)の音域とリズム変更。残りはデュナーミクに関してであり、厳密になるところは厳密に、自然に演奏されるところは(作為的に演奏されないように)省略がなされる等変更されている。また、マンドローネの一部音域変更等も行われている。

 Ouverture Historiqueシリーズは原則として10年毎に作曲を行うと、帰山氏自身が明言しているが、本曲に関しては、1980年のNo.3作曲後、わずか2年で作曲されている。これは、1982年に東京を始めとする各地で立ち上げられた「反核・日本の音楽家たち」と言う組織にに名古屋での呼びかけ人として参加された帰山氏が、日本の音楽家がこのような一種の「運動体」を組織するのは、画期的なことで、まさしく「Historique」に値するのではと考え、当時丁度、神戸大学から作曲を委嘱されていたこともあり、この曲をシリーズの中に「臨時に」挿入した、と言う事情によるものである。

 曲は帰山氏の十八番とも言える緩−急−緩−急のテンポ構成。序で表現されているのは、護るべき、愛すべき我々の自然(環境)と人間、であり、本体で表現されているのは、それを表出する人間のエネルギー感、である(帰山氏談)。譜面にクレジットされた「反核・日本の音楽家たち発足の年に」や曲調から、「死」、もっと具体的に「広島・長崎の悲劇」がモチーフとなっている曲として捉えられがちであるが、むしろ、「生」「愛」がキーワードとなっている曲であることに留意されたい。

 帰山氏が常に内包し熟成してきた思想=現代社会の人間疎外の憂鬱の中で『人間の持つ宿命的な淋しさ』をしっかりと見つめいかにして人間らしく生き抜くか=の中で、本曲は特に”生きる”と言う点へスポットを強めており、これ以降の作品にも強く受け継がれている。同時期に作曲された「協奏詩曲」との共通点も多い本曲は、70年代から80年代前半を通して様々なアプローチを繰り返してきた帰山氏の作品の一つの集約点であり、ここから又これ以降の作品へと流れが始まっていると言えるのではなかろうか。

参考文献:帰山栄治普及振興協会編『帰山栄治作品解説集』

第36回定期演奏会より/解説:えぞ