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独創的序曲「国境なし」

Senza Confini, Ouverture Originale (1905)
ジュセッペ・マネンテ 作曲 中野二郎 編曲
Giuseppe Manente / Rid. Jiro Nakano (1867.2.2 Sannio〜1941.5.17 Roma)

 作者は斯界では知らぬ者はいないイタリアの作曲家。王立陸軍学校付属の軍楽学校にて音楽教育を受けた後、軍楽隊長を歴任した。
この経歴から、作品は主に吹奏楽のために書かれている。
マンドリン合奏のためにも多くの作品を残しており、その中には1906年のIl Plettro誌の第1回作曲コンクールで銅杯を受賞した幻想曲「秋の夕暮れ」や1908年の第2回作曲コンクールで上位佳作を受賞した序曲「メリアの平原にて」、1906年のシヴォリ音楽院の作曲コンクールで第2位を受賞した4楽章の交響曲「マンドリン芸術」などの重要な作品が含まれる。
マネンテの作曲において演奏媒体は二義的なものであったようで、最初に吹奏楽で作曲され後にマンドリン合奏に編曲された序曲「小英雄」(Il Plettroの第4回作曲コンクールで第2位を受賞している)や、その反対にマンドリン合奏のために作曲されて吹奏楽に編曲された「メリアの平原にて」が存在するなど、作曲者自身による作品の編曲が多く存在する。
故中野二郎氏は戦前にマネンテと文通による交流があった。戦後、中野氏によって本曲など多くの作品が吹奏楽からマンドリン合奏へ編曲されている。

 本曲は歩兵第3連隊の軍楽長時代に書かれた作品で1905年に出版されている。
作曲者の経歴や曲の構成から、『国境なく進軍する軍隊への賛歌』といった意味合いがあると考えられる。

 本曲の楽曲形式は展開部が無く第1主題と第2主題の順序が入れ替えられたソナタ形式であると見ることができる。
ソナタ形式において第1主題と第2主題の順序を入れ替える手法は本作品の後に作曲されたと考えられる「マンドリン芸術」の第1楽章にも見られるものであり、その比較から作曲者の楽式観の変遷が見て取れる。
「マンドリン芸術」においては第2主題の提示の前に主調による序奏が設けられているため曲頭と曲尾(ただし第1楽章の内部のみ)の調性が一致しているが、本曲においてはそのような序奏が無いために曲頭が主調ではなく下属調の平行調となり、楽式のもつ特異性がより直接的に表現されている。
これによって、冒頭における下属調の平行調での第2主題の提示と、それに引き続く全て主調での第1主題(AとB)の提示と第2主題の再現、第1主題の再現との間に対比が際立つこととなる。
異質であったものを同化するようなこの構造は、すなわち国境を取り払い、領土を拡げていく点で、まさに「国境なし」という動きと同一である。

 曲は前述のように下属調の平行調である変ホ長調に始まる。
冒頭の第2主題はエピソードを挟む三部形式に依り、Andanteであってテンポの面でもAllegro vivoである他の部分と対比がされる。
流れるような旋律の中にエネルギーを内包した第1主題Aは主調であるト短調、行進曲風の第1主題Bは同主調であるト長調で提示される
。第2主題の再現はAllegro vivoのテンポのまま同主調で行われ、その後第1主題ABがほぼ型通りに再現される。

参考文献:
 中野二郎著「いる・ぷれっとろ」

第38回定期演奏会より/解説:kiyota