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小序曲「ローラ」

Lola, Piccola Sinfonia per Orchestrina (1902)
イャサンテ ラヴィトラーノ
Hyacinthe (Giacinto) Lavitrano (19c Ischia〜1934.12.16 Bône)

 作者はイタリアのイスキア島に生まれ、フランスに帰化してフランス植民地であった北アフリカのアルジェリアに死した作曲家。Hyacintheはフランス風の綴りであり、帰化前のGiacintoの名前で発表された作品もある。パォレッティから和声と対位法を学び、ナポリの音楽学校でフォルトウッチに師事した。マンドリン合奏のために多くの作品を残しており、作曲コンクールに入賞した本曲や序曲「レナータ」、ロマンツァとボレロ「雪」などは現在でも代表作としてよく演奏される。
 本曲はIl Mandolinoの作曲コンクールに入賞し、1902年に出版されたものである。標題の「ローラ」は女性の名前と見られ、19世紀中頃に浮名を流した女優ローラ・モンテス(本名エリザベス・ロザンナ・ギルバート)を描いたものとも言われている。
 ローラ・モンテスはアイルランドに生まれ、最初の夫と別れた後は富裕な資産家男性たちの愛人となることで、当時としては破格の収入を得るようになった。1846年にはバイエルン王ルートヴィヒ1世に見初められて愛人となるが、政治に影響を与えると国民から疎まれ、1848年には市民の暴動によって国外追放を受けた。その後はアメリカやオーストラリアなどを次第に落ちぶれながら渡り歩いたという。
 本曲の楽式はやや自由なソナタ形式に依るが、単一楽章の中に緩急を織り交ぜた構成は形式的な堅苦しさを隠すとともに波乱に満ちた標題を表現するものと見ることができる。第1主題は共通の部分動機をもつが再現において分割される前半Aと後半Bに分けることができる。いずれも主調であるト長調で開始するが内部での転調が多く、変化に富むものである。一方で第2主題は安定した調をもつ主題で、平行調の同主調であるホ長調で提示され、主調であるト長調で再現される。この主題は下降解決の倚音を多く含み、とりわけ3度下降-2度下降-2度下降(=倚音解決)という部分動機が印象的である。この部分動機は展開部における展開要素としても多く用いられる。
 内部転調の少なさや部分動機の展開要素としての使用は、第2主題がこの曲の真の主題であるということを示している。すなわち、第2主題が「ローラ」そのものを表していると捉えることができる。本来であればソナタ形式の副次的な主題である第2主題を主人公に据えることは、主役でありながら主役でありきれないローラ・モンテスの生涯を象徴しているようである。第2主題は提示とは変わった調で再現された後、逃げるかのように速度を速める。そしてローラの追放を喜ぶような第1主題Aが華やかに曲を閉じる。

参考文献:
 中野二郎著「いる・ぷれっとろ」http://homepage1.nifty.com/yasu-ishida/
 フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』http://ja.wikipedia.org/wiki/ローラ・モンテス

第40回記念定期演奏会より/解説:kiyota