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組曲第1番

Suite Nr.1 für Zupforchester, Op.29(1935)
コンラート・ヴェルキ
Konrad Wölki (1904.12.27 Berlin〜1983.7.5 Berlin)

I. Präludium
II. Courante
III. Sarabande
IV. Gavotte
V. Gigue

 作者はドイツの作曲家、マンドリン奏者で、マンドリン合奏の地位向上に貢献した。12歳の時にベルリン王立オペラ児童合唱団のメンバーとなった。18歳の1922年にマンドリンオーケストラフィデリオを結成した。この合奏団は何度か名称変更して、最終的に1937年にベルリナーラウテンギルデ(ベルリンリュート組合)という名前になった。1934年から1940年までシュテルン音楽院で撥弦楽器を教え、1948年から1959年までライニッケンドルフの市民音楽学校を指導するなど教育方面で活躍した。ヴェルキは多数の作曲や編曲、マンドリンの歴史の研究、マンドリン教本の出版などを通じて撥弦楽器の認知度を高めた。
 作風は、初期には大編成のロマン派、中期は小規模なバロック風、後期は近代的な和声やリズムを取り入れて、晩年には全日本高等学校ギター・マンドリン音楽振興会との交流を通じて原点回帰した(中期に作曲された本曲は、このつながりでギター合奏用にも編曲されている)。
 ドイツのマンドリン合奏曲は、初期においてはトレモロ奏法の多用や管楽器などの導入を含めた大編成化によるオーケストラ志向が強く、ヴェルキの初期の作品はその中心的存在であった。その中で1933年にHermann Ambrosiusが組曲第6番を作曲し発表すると、そのピッキング主体の奏法、小編成の響き、新古典主義などの作風に可能性を感じたヴェルキらが追従し、現在のドイツにおけるツプフ音楽の流れの原点となった。アンブロジウスの音楽がいかにエポックメイキングであったかは議論の余地が無いが、既にドイツのマンドリン音楽において地位を築いていたヴェルキの追従はそれが全体に波及する上で特別の意味があることであったに違いない。
 本曲は組曲第6番の影響を受けてヴェルキが作曲した作品であり、擬古典的な形式やピッキング重視(トレモロ奏法は本曲では完全に排除されている)などの特徴が端的に表れている。後に作曲された組曲第2番Op.31が同様の作風を持ちながらもより自由に昇華しているのに対して、本曲には作者にとっての新しい作風に厳格であろうとする姿勢が感じられる。ヴェルキはマンドリン合奏用にGeorg Friedrich Händelのクラヴィーア組曲第2集第4番HWV437を編曲しているが、それを研究することを通じてバロック様式を学んだと考えられ、本曲の舞曲様式にはその曲との類似性が強く表れている。作者の没後、埋葬の際にはかつてのラウテンギルデのメンバーが本曲を演奏したという。
 本曲は古典組曲(バロック舞曲による組曲)の形式を持ち、前奏曲、クーラント、サラバンド、ガヴォット、ジーグの5つの楽章からなる。古典組曲の基本舞曲から最初のアルマンドが省略されており(その代わりに前奏曲が置かれている)、間奏舞曲にはガヴォットが選ばれている他、ジーグの直前にはサラバンドのリズムによる短い間奏Zwischenspielが挿入されている。舞曲の様式は前述のようにヘンデルのクラヴィーア組曲のそれを基本としているが、バロック様式からの逸脱も見られる。それはヴェルキの個性であり、本曲のバロックパスティーシュとしての魅力である。

参考文献:
 Wikipedia, Die freie Enzyklopädie (ドイツ語版)
 http://de.wikipedia.org/wiki/Konrad_Wölki

第43回記念定期演奏会より/解説:Kiyota