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STABAT MATER - 亡き子に捧ぐ鎮魂歌
(1977)
藤掛 廣幸
Hiroyuki Fujikake(1948. Gifu〜)

 作者は現代日本の音楽を語る上で欠くことのできない代表的作曲家であり、その作品も初心者でも合奏を楽しめる平易なものから現代音楽的で実験的な作品まで広範に渡っており、その表現媒体も管弦楽にとどまらず、吹奏楽、フルートオーケストラ、マンドリンオーケストラ、シンサイザー、邦楽等多岐に渡っている。1977年ベルギーで開催されている「エリーザベト王妃国際音楽コンクール」では大編成の管弦楽『縄文譜』で日本人初のグランプリに輝いたのはつとに有名であるが、他にも毎日音楽コンクール入賞、全日本吹奏楽コンクール課題曲作曲賞、日本マンドリン連盟合奏曲コンクール入賞、笹川賞吹奏楽曲作曲コンクール2年連続第1席受賞、音楽の友社作曲コンクール入賞、民放連盟最優秀賞等数えきれない受賞を持っている。1990年には日本交響楽振興財団主催の「現代日本のオーケストラ音楽」において『春の詩』(マンドリン・オーケストラ作品の『春の讃歌』は本作を母体として書かれている)で入賞を果たしている。愛知県立芸術大学作曲家卒業、同大学院修了。日本作曲家協議会会員、日本マンドリン連盟顧問。
 「スターバト・マーテル」というプレクトラム音楽では馴染みの薄い、宗教的な素材をもとに作曲された本曲であるが、< Stabat Mater >というタイトルは中世以来流布したセクェンツィアのひとつである聖母讃歌によるもので、そのラテン語の歌詞は十字架に磔刑された御子イエス・キリストを悼み、その傍らに立ち尽くす聖母マリアの悲しみに思いを馳せたものである。原語の歌詞は「悲しみにくれる御母は涙にむせび、御子の懸かっている十字架のもとに佇んでいた」との悲痛な嘆きに始まり、「肉体は朽ち果てるとも、魂には天国の栄光を授けたまえ。アーメン」と、悲しみがやがて至福の世界へと浄化されてゆくさまを描き出しているが、本曲の合唱ではボカリーズとアーメンのみで非常にシンプルな構成である。本曲は1978年、金城学院短大MC及びクワイアにより初演され、以後全国で優しい愛の歌を奏で続けている。マンドリンオーケストラの為に作曲された古今の曲の中でも最も美しく、最も天国に近い逸品である。

【作曲者記】
 < Stabat Mater >とは、“悲しみの聖母”という意味で、イエスキリストを失った聖母マリアの悲しみを歌った曲であり昔からこの題材に基づいて書かれた曲は沢山あります。ペルゴレージのそれは最もよく知られたものであり、ハイドン、ドヴォルザークやその他の作曲家もラテン語の歌詞により独唱、合唱、オーケストラの為に大規模な曲を書いています。
 金城短大マンドリンクラブより作曲の依頼を受けた時に、僕自身の体験もオーバーラップして< Stabat Mater >を書こうと決心しました。たしかに題名は“悲しみの聖母”であるが、断じて悲しみは歌わないようにしよう・・・・清らかな愛のうたのみを歌おう・・・・と強く思いました。
 表面的な事ではマンドリンオーケストラの最も美しい音色を最大限に生かすこと、またエレクトーンやグロッケンを入れることによってハーモニー、響きの充実をはかっています。合唱はほとんどハミングコーラスです。
 金城短大はキリスト教の学校であるので、きっと心のこもった清らかで優しい愛のうたを天国にいるすべての子供たちのために聞かせてやってくれる事と思います。( 1978.2 初演時のバンフより)

第20回定期演奏会より/解説:Yon


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