楽交響的エピローグ「ミラ・ディ・コドラ」
"Mila di Codra" Epilogo Sinfonico (1935)
エマニュエーレ・マンデルリ 作曲/石村 隆行 編曲
Emanuele Mandelli(1891.8.27 Morengo(Bergamo)〜1970)

 作者はイタリア北部、ロンバルディア州のベルガモの小都市モレンゴに生まれた、管弦楽作曲家にして指揮者。ミラノの音学院に学び、1920年には再びエミリア・ロマーナ州パルマの音楽学校を卒業した。長くベルガモのドニゼッティ音楽院で教鞭を取り、同地では聖マリア・マジョーレ教会の楽長も務めた。作品については多くは知られているわけでは無いが、劇場作品、管弦楽、ピアノ曲、合唱曲などを残した。管弦楽作品には『聖書組曲』や組曲『聖フランチェスコの花』があり、吹奏楽の分野では『カルソ風夜曲(松本譲氏がM合奏に編曲している)』が見受けられる。斯界へのオリジナル作品には、1931年『Il Plettro』誌に掲載された名作『楽興の時』が本邦でも広く知られている。
 本曲は1935年に伊カリッシ社から出版された管弦楽曲で、1988年パドヴァにおいて石村隆行氏によって編曲され同年暮れに同志社大学マンドリンクラブによって本邦初演が行われた。題名となっている『ミラ・ディ・コドラ』とはイタリアの詩人・劇作家として高名な Gabriele D'Annuizio(1863 〜 1935)の著作『ヨーリオの娘』に登場するヒロインの名前である。G.ダンヌンツィオは16才にして処女詩集『早春』で学壇にデビューした早熟の天才で、言語の音感的な美質と豊富な語彙、ニーチェに影響された官能的超人主義というある種カリスマ的な魅力で、愛国主義者などに盲目的な信者を生んだ作家である。その著作には、嫉妬からわが子を殺す『罪無き者』、性愛の不安と盲執から愛人と死の断崖を跳躍する『死の勝利』など時代を背景にした暗鬱たるものが多く、これらは音楽家にとっても恰好の題材となったであろう事は想像に難くない。特にC.ドビュッシーが曲をつけた、神秘劇『聖セバスティアンの殉教』は現在でもしばしば舞台にかかる名作である。その後、G.ダンヌンツィオはイタリアのファシスト政権の樹立に共鳴し、自ら義勇軍を率いてフィウメ占領を果たすなど政治的な活動も多い。本曲の原作となった『ヨーリオの娘』は作曲者の生まれ故郷に近い、アブルッツォ地方の山間の農民の伝承を、イタリアの原始的な恐怖と熱情と迷信とによって味付けをしたG.ダンヌンツィオの作品中でも最も重厚な悲劇である。
 曲は悲劇を暗示する暗く狂おしく、そして衝撃的な旋律が全編を支配しており、ほのかに見える希望は、より暗鬱な旋律によって次々と掻き消され、運命の呪縛から逃れようと必死にもがき苦しむ。しかし運命は何度も主人公に鉄槌を加え、救済の無いままに結末を迎える。これほど迄に暗く救いの無い曲も珍しい。編曲はお馴染みの石村隆行氏だが、本曲にあっては曲の異質性がそのまま編曲にも現れており、特にギターの扱いに単音が多く、重要な低音パッセージを奏でる部分も任されており、所謂イタリアの編曲ものとは一線を画している感がある。

第23回定期演奏会より/解説:Yon


>>Home >>Prev >>Return >>Next