マンドリンオーケストラの為のバラードIV「河の詩」
Ballade No.4 "A River Poem" for Mandolin Orchestra(1981)
熊谷 賢一
Kenichi Kumagai(1934.Yokohama〜)

 作者は1943年に横浜に生まれ、愛知学芸大学卒業後、間宮芳生、助川敏弥の両氏に師事、NHKの委嘱による作曲、指揮活動を開始した。その後、川島博、中川弘一郎の両氏と「三音会」を結成し、各種音楽団体の委嘱による作曲活動をはじめとしてドラマ、映画、舞踊、室内楽、合唱、と幅広い活躍を続けてきた。斯界には1971年、東海学生マンドリン連盟の合同演奏会で初演された「群炎I」で衝撃的なデビュー後、実験的な音楽から平易なアンサンブル用の作品まで多くの作品を残している。
 本年学生団体の不作法や著作権処理の不備などを理由に斯界との絶縁を宣言し、今後氏の作品の演奏は凍結となる為、当クラブでも氏の意志に沿い、特別な機会での演奏を除き、氏の作品の演奏を凍結する。
 主な作品には合唱曲「やがて雨のあがる朝に向かって」「夜明けに寄せる3つの歌」、歌曲集「北の雪降る街から12ヶ月の歌」、創作オペラ「ゆきおんな」、管弦楽と鳴り物の為の「群炎」、マンドリン合奏曲としてボカリーズI〜X、群炎I〜VI、ラプソディーI〜VI、バラードI〜VI、プレリュードI、等を残した。殊に音楽の友社から出版された児童合唱の為の曲集「すばらしい明日の為に」は氏の最も美しい世界が現れている。(氏の作品には合唱曲などの一つの主題や旋律をいくつかの作品に引用、あるいはそのままあてはめる事で合奏作品でも常に「歌謡性」が重視されており、後年は斬新な面が後退し、その傾向はますます顕著になった。)
 本曲は1981年東海学生マンドリン連盟合同演奏会において中部工業大(現中部大)ブロックが初演した、氏の作品の中でも最も物語性に富んだ作品。曲は河が源流から河口に向かって流れる様をそのまま人生に準えた面持ちの曲で4つの主題が全曲を支配している。冒頭に示される主題(A)は全体を通して様々に変容していく中心。冒頭主題の後、ギターとグロッケンの分散和音に乗って示される主題(B)は前半を司るメランコリックなテーマ、途中滝を思わせる部分で豪快に奏でられるのは主題(C)、そして静寂の後ギターがイニシアチブをとって示される極めて印象的な主題(D)。これらは以下に示すような曲中の役割を果たしており、また互いが密接に関係し派生したかのような印象を受ける。
 河の流れは時の流れと同化しており、作者はその中流、すなわち現在に立って、過去から未来へと流れていく時間を河に例えて表現しているのである。そこにあるのは過去の自分を肯定しつつ、新たな未来に向かって歩きだす人間存在を讃える讃歌なのである。

第25回定期演奏会より/解説:Yon


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