楽興の時
Momento Musicale (1931)
エマニュエーレ・マンデルリ
Emanuele Mandelli(1891.8.27 Morengo(Bergamo)〜1970)

 作者はイタリア北部、ロンバルディア州のベルガモの小都市モレンゴに生まれた、管弦楽作曲家にして指揮者。ミラノの音学院に学び、1920年には再びエミリア・ロマーナ州パルマの音楽学校を卒業した。長くベルガモのドニゼッティ音楽院で教鞭を取り、同地では聖マリア・マジョーレ教会の楽長も務めた。作品については多くは知られているわけでは無いが、劇場作品、管弦楽、ピアノ曲、合唱曲などを残した。管弦楽作品には『聖書組曲』や組曲『聖フランチェスコの花』があり、吹奏楽の分野では『カルソ風夜曲(松本譲氏がM合奏に編曲している)』が見受けられる。当団では第23回定演で石村隆行氏の編曲による大作『交響的エピローグ〜ミラ・ディ・コドラ』を演奏してマンドリン合奏においては非常に特異な悲劇性の表出で話題を呼んだ。
 本曲は1931年12月のイル・プレットロ誌に発表されたマンドリン合奏曲で、歴史のあるマンドリン合奏団であるエステュディアンティナ・ベルガマスカの会長ロドヴィーコ・クワドリ氏に献呈されている。曲は神秘的なマンドリン群のストレットなトレモロによって開始される。歌い過ぎず、濃密になり過ぎず、紙一重のところで陳腐なロマン派小品に陥らないのは作者の精神性の高さを示していると思われる。主題の表出にあっては叙情性が堅固な和声の上で慎ましく花開いており、宗教的なまでの高まりに昇華していく様は筆舌に尽くしがたいほどの美しさである。曲は終結部において天国的に高まり、雲間から差し込む陽光の中にとけ込みながら消えてゆくかのようである。これだけの精神的充足度を示した小品に筆者は出会ったことがない。これは地上の音楽ではない。

第27回定期演奏会より/解説:Yon


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