前奏曲「山の夜明け」
Preludio"Alba in Montagna"(1937)
ディノ・ベルッティ
Dino Berruti (1893.8.31 Lu Monterrato〜 1947.8.22 Casale)

 作者はイタリアの北部ルモンテラートに生まれ、音楽については全くの独学で学んだ人であ った。しかし父が同じように独学でピアノやフルート、ヴァイオリンなどを嗜んだことから、 幼少期よりその影響を受けて、作曲をも志すこととなった。マンドリン合奏団や弦楽合奏団の指導をしていたことがあり、数多くの弦楽作品を残したが、その多くは非常に神経質で、描画的なセンスをもった独特な筆致で異彩を放っている。

 1930年代のイタリアの斯界はすでにその勢いを失いつつあり、マンネリズムに陥りかけてい たが、作者の前述のような作風は新風を吹き込み、新たな可能性を模索したものであった。事実作者の使う和声にはある種分裂気質とも言えるものがあり、崩壊寸前のロマンティシズムとも言える危なげなものである。作者のこうした分裂的な気質は、次第にその精神をも病み、毎年のように発作ともいえる症状を呈し、その治療の一貫として、ごく簡単な手術を行おうとしていた矢先に、極度の絶望感を感じ、自らその命を絶ってしまったのであった。
 作品には「夕暮れ語る時」「モスコーの真昼」 (ともに1930年イル・プレットロ誌コンコル ソ1等)、「ハンガリアの黄昏」を初めとして、叙景的かつ描画的なものが多いが編成も多岐に渡り、「クレオパトラの変容と死」や本作などは作者の作品中では大規模なものと言える。

 本曲は昭和51年に大阪で開かれた第六回全国高校ギターマンドリンフェスティバルの折りに来日したシエナマンドリンオーケストラのA.ボッチ氏によってもたらされた作品のひとつで、 スコアも氏によって書き改められたもののようで、作者の署名も成されてはいない。氏は作者と長年の交友があり、多数の未出版譜が秘蔵されているとのことである。またこれら一連のボッチ氏の来日には同志社大学OBの岡村光玉氏の貢献が大きな役割を果たしていたことも特筆しておく必要があろう。
 作品はマンドラ・コントラルトを含む弦楽7部にティンパニ、カンパネラ、ハルモニウムを 含む大規模なもの。夜の情景から始まり、薄日が射しはじめ山の稜線が徐々にその姿を明瞭にしてゆく情景の中で、風はそよぎ、草花は揺れ、鳥は囀り始める様は神秘的に美しい。やがて太陽が山の稜線から姿を表し、教会の鐘が鳴り響き、アヴェ・マリアの歌が流れ始めるという様は、ある種神々しささえ感じるものである。

 作者は「天国から落ちたバラ」という二幕ものの音楽劇を担当したことがあり、その前奏曲 には「L'Alba」(夜明け)という本曲によく似た曲が使用されており、彼自身が大変この曲を 気に入っていたようである。ちなみにこの音楽劇の間奏曲には「サンタ・テレサの変容と死」と いう「クレオパトラの変容と死」に酷似した曲が使われており、そのクライマックスで用いら れるモチーフやリズムの共通性とあいまって本曲と「クレオパトラ」は作者の作品のなかでも 双生児とも言える対をなした作品と言えるかもしれない。

第28回定期演奏会より/解説:Yon


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