Preludio per varii strumenti
(1877)
フォルトゥナート・マジ 作曲/杉本直樹 編曲
Fortunato Magi (1839.10.6 Lucca〜1882.8.2 Venice)

 作者は1839年にルッカに生まれた作曲家・指揮者・音楽講師であるが、これらの経歴よりは、 イタリアの有名なオペラ作曲家ジャコモ・プッチーニの叔父(ジャコモ・プッチーニの母であ るアルビナの兄弟)として名前を知られている。しかし、単なる血族関係ではなく、プッチー ニ一族とは音楽的に深い関係にあり、音楽家の一族として有名なプッチーニ一族の一員とみな されている。マジは、ジャコモの父であるミケーリ・プッチーニが教えていたパチーニ音楽院 でミケーリに音楽的な指導を受け、1864年にミケーリが亡くなると、その代わりの講師と して作曲法と対位法の授業を行い、1872年には校長をも務めた。ジャコモ・プッチーニには講 師として音楽の技術を教えるとともに、プッチーニ家の家計も助け、大プッチーニには多大な 影響を与えたといえる。その後も各地の音楽院で教えたが、優れたオルガン奏者でありかつヴ ァイオリンとベルカントも学んでいて、特に指揮者としても評価が高かったようである。モー ツアルトの「ドン・ジョバンニ」やロッシーニの「ミサ・ソレムニス」をルッカの聴衆に最初 に演奏したのは彼であった。1876年にはヴェニスの音楽学校の校長に就任していたが、1882年 に彼が亡くなったときには、新聞でその死が報じられ、ヴェニスの人々は深い悲しみをあらわ した。  

 作曲家としてのマジは、19歳のときにルッカの聖カエキリアの祝日の為の祝典音楽を書くな ど、早熟な面を示している。オーケストラ曲のほかに合唱曲・教会音楽も書いている。今回取 り上げた「Preludio」は1877年に作曲された8分ほどのオーケストラ作品である。原曲は「大 オーケストラの為の」(per varii strumenti )という副題が示すように、古典的な編成より は金管が増強されハープが追加されているのだが、今回は普通のマンドリン合奏の編成で編曲 した。技法的にそれほど難しい部分はないであろう。

 曲は大きく分けて3つの部分に分けることができる。アンダンテ・ソステヌートで開始され る主題は厳しく悲しげであるが、感情の高まりを表しつつ、長調に転調しファンファーレに到 達する。しかしそれも長くは続かず、一旦力を失うかのように静かな部分を迎えるが、徐々に 現在の痛みを思い出すかのように盛り上がり、ついには感情を爆発させる。中間部はウン・ポ コ・ピウ・モッソで、一転して優雅な長調となり、過去の思い出を回想するかのように甘くせ つない旋律がギターのアルペジオの上に演奏される。これも徐々に盛り上がり頂点を迎えた後 に、喪失感を漂わせた終結部に入る。最初の主題がソロマンドリンで奏されるが、もはや最初 のような荒々しさはない。最後は現在の自分を慰めるオルゴールのようなマンドリンとマンド ラの16分音符の上で主題が静かに部分的にうたわれる。

 編者は当初からこの曲を聴いて知っていたわけではない。マジという作曲家の他のオーケストラ曲「Sinfonia a piena orchestra e banda」(BONGIOVANNI GB5030-2)をCDで聴き、 ぜひ編曲できないかと楽譜を探していたところ、偶然同作曲家の作品である本曲のスコアを店 頭で入手することができた。試しに少しばかりさわってみたところ、結構マンドリン合奏向き ではないかと思われたので、今回編曲してここに演奏をさせていただくはこびとなたのだが、 イタリア的な旋律の強さとロマン派的な和声の甘さが気に入っている。編曲を終了し当団体で 練習を始めた後で、インターネットを通じて本曲のオーケストラ版のCDを、イタリアのローカルな盤元から入手することができたのも幸運であった。ただ、当初のねらいの曲のスコアは 手に入りそうもないし、マジには他にも「Saluto al Re d'Italia 」「Sinfonia sull'inno reale」といった曲もあるようで、まだまだ探索の道は終わりそうにない。ただ、今回イタリア の作曲家の知られていない曲を編曲してみて、他の作曲家の知られていないマンドリン向きの 作品もぜひまた編曲してみたいとひそかに考えている。

 今回の編曲の底本は Edition Kunzelmann 10279 edit by Herbert Handt による。

第29回定期演奏会より/解説:naocchi

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