E♭の肖像
(1999)
柳田 隆介
( 1952. . sapporo〜 )

 作者は1952年北海道に生まれ、宮城教育大音楽専攻を卒業、作曲を福井文彦、佐藤真の両氏 に師事。在学中は同大マンドリン部指揮者として活躍。77年には日本マンドリン連盟主催の第 2回作曲コンクールにおいて「マンドリン合奏の為の二章」が1、2位なしの第3位に入賞。 近作には「フルートとマンドリンオーケストラの為の協奏曲」や「パッサカリア」、「ボカリーズ」「ポートレイト」「Light Music 」など小品のシリーズがある。

【作曲者による曲目解説】

 この作品は、平成10年7月に作曲された。直後、関係者によって試演を行い、若干の改訂 を経て、同年8月に完成された。原形は、前年七月に作曲された「ラ・フェスタ・デ・ラ・ステラ」である。これは、宮城教育大学OB会のために作曲した作品であり、モティーフは宮沢賢治の詩「原体剣舞連」をもとにしている。

 かつての日本人が原体験的に持っていた、民族のエネルギーを表現したいと考え、作曲に着手したが、個人的には欲求不満の残る結果となった。その理由は、作品の出来を云々する以前 に、与えられた条件(演奏時間と作品の規模)では、この巨大な世界を表現し尽くせなかったからであると、今なら言える。その後、すぐに第一楽章に着手し、およそ一年を費やして全曲の完成をみた。曲は三つの楽章から成り、第一楽章と第三楽章では、徹底的にオスティナートを追求している。全曲を通して描いているものは、漆黒の闇と松明の明かりに映し出された異装の舞手。

「作品の構成」

 「dah-dah-dah-dah −dah-sko-dah-dah 」、これは宮沢賢治の「原体剣舞連」の冒頭である。 これを何度も読み返して欲しい。ゆっくり読んだとき、早く読んだとき、それぞれの場面で、 あなたはどのようなリズムを感じたであろうか。そのリズムに音符をつければ完成、…ちょっと待って欲しい。それでは、宮沢賢治の盗作に過ぎない。その心象を、一度自分の感性にフィ ードバックし、それを音にするのである。だから、心に響いた音は、百人百様(ひとそれぞ れ)である。こうして、静かに心に繰り返したとき第一楽章が生まれ、倦むまで読み続けたとき、第三楽章が生まれた。第二楽章は、深夜、花巻村に立ったときに去来した想いの残像であ る。

「題名の由来」

 E♭が、好きである。偏愛している。

 ご存知の通り平均律では、派生音を含めて12個の音符がある。これを平等に愛したのが( しかも知的に)、12音による音楽であり、その対極にあるのがこの作品である。E音が陽だと すれば、陰がE♭である。ボクは、この二つの音の重なりがたまらない。第一、第二楽章にお いては、曲中いたるところに、この重なりが現れる。この響きが聞こえる度に、甘やかな香り と、一抹の寂しさを感じて欲しい。遠い日の郷愁が心をよぎる想いがする、といったら感傷に過ぎるであろうか。

第29回定期演奏会より/解説:Yon

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