田園風情景『祭』
Quadri Campestri "Sagra"(1905刊)
クイント・ファッブリ/中野二郎編曲
Quinto Fabbri

  1.夜〜黎明
  2.取り入れをする人の唄
  3.鐘
  4.祈り(コンチェルタート)
  5.タランテラ(田舎の踊り)

 作者については故中野二郎氏、故松本譲氏の調査をもってしても19世紀後半のイタリアの作 曲家である事しかわかっていない。フィレンツェのアドルフォ・ラピーニ社は1894年から毎年、 吹奏楽の作曲コンクールを催して優れた作品を数多く出版した(本日も演奏しているフィリッ パ親子の作品もまた然りである)が、本曲もその時流にのり出版されたものと思われ、1905年 に刊行された旨が原曲譜に記載されている。G.マネンテの作品などを数多く所持し、編曲され た故中野氏の元にはこうした19世紀末のイタリア吹奏楽曲が数多く残され、美しい表紙に彩ら れたすばらしい遺産として今は同志社大学に寄贈され、中野譜庫として収集家に門戸を開いて いる。中野氏が編纂した斯界の至宝「イタリアマンドリン百曲選」によれば、作者には他に 「美しきフリウリアの娘」「ヴィーナス」「フィレンツェへ」「美しき夢」などの小品(いず れも吹奏楽曲)が残されており、上記中野譜庫に収載されている。

 本曲は11パートの吹奏楽編成で書かれており、他に多数の打楽器を要する。楽章を区切らず に演奏され、一連の流れが祭りの一日を表現している。現題にある「Sagra」が本来、教 会の祝祭記念日を表している事から、本曲の中心は第三、第四楽章にあると考えられ、スケー ルの大きな旋律と相まって演奏会の掉尾を飾るのに相応しい大作と言えよう。  夜の描写から始まって、何かが起こりそうな予感の中、夜明けとともに小鳥の囀りが聞こえ はじめる。遠くから刈り入れをする人々の合唱が近づいてくる様は非常に叙景的である。歌声 が高まったところに教会の鐘が高らかに鳴り響いて村人達の集合を促して行く。一同が会した ところで、教会からは荘厳なオルガンの礼奏が流れる。村人達の敬虔な祈りはやがて宗教的な 昂りを見せて、神への感謝のコラールへと昇華する。礼拝が終わり町に出た人々の中から高 らかに祭りのラッパ(編曲がはマンドラだが、原曲ではコルネットとビューグル)が、鳴り響 く。村人総出の踊りはタランテラ(テンポの早いイタリア南部の踊り)である。この踊りの渦 にすべての人々が巻き込まれ騒乱のまま祭りの一日が終わろうとしている。

第29回定期演奏会より/解説:Yon

>>Home >>Prev >>Return >>Next