歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より前奏曲
"Cavalleria Rusticana" preludio(1889)
ピエトロ・マスカーニ 作曲/ジョバンニ・フランチェスコ・ポーリ 編曲
Pietro Mascagni (1863.12.7 Livorno〜45.8.2 Roma)

 オペラという芸術形式は、18〜19世紀にかけて西洋音楽における総合芸術としての地位を確立し、ヴェルディとワーグナーの諸作品で一つの頂点を迎えたといえる。しかし、現実から大きく遊離した設定や筋書きを見直そうという文学運動が、イタリアにおいてはヴェリズモ(真実主義、現実主義)として展開され、この運動は音楽分野でも特にオペラではヴェリズモ・オペラという形式で実現された。これは、より身近な題材、愛憎、殺人といった題材を元に、荒々しく感情の発露を行うものとなっている。「カヴァレリア・ルスティカーナ」は1889年に作曲された1幕物のオペラで、「道化師」とともにヴェリズモ・オペラの代表作としてよく知られている。また、作曲者のマスカーニはこの曲で一躍有名となったが、その後本作ほどのヒットに恵まれることはなかった。もっともマンドリン編曲では「仮面」序曲は有名である。
 このオペラからは「間奏曲」が群をぬいて有名であるが、今回は前奏曲をとりあげる。「カヴァレリア・ルスティカーナ」は、シシリアの小さな村の復活祭の日に、主人公であるトゥリッドゥとサントゥッツアの愛憎と、トゥリッドゥとアルフィオのローラをめぐる争いと決闘が軸で話が進められる。タイトルは「田舎の騎士道」といった意味だが、ローラへの愛というよりは村人への体面と意地のために決闘を申し込むアルフィオと、これも体面のためだけに決闘を受け入れるトゥリッドゥのシチリア人の生きかたをあらわしたものである。オペラの中の曲は、純朴な村人と復活祭の情景を表す明るい音楽と、トゥリッドゥとサントゥッツアをあらわす情熱的な感情の音楽からなっているが、「間奏曲」が村人と復活祭の情景を表す美しい音楽であるのに対して、「前奏曲」は情熱的な感情の音楽が主になっており、こちらの方がオペラの本質をあらわしているといえよう。
 曲は「カヴァレリア」の6つの部分の旋律から作られており、復活祭の朝のような穏やかな旋律から始まるが、曲は次第に振幅を大きくしながら、トゥリッドゥとサントゥッツアの愛憎を歌いあう二重唱の旋律でひとつの頂点を迎える。しかし、そこでトゥリッドゥがシチリア島の方言でローラへの愛を舞台裏から歌うシシリアーナがはさまれていて、トゥリッドゥのローラ(昔の恋人、現在アルフィオの妻)への愛が歌われる。最初はローラの美しさを賛美するが、歌っているうちに感情的に盛り上がって、「彼女のためなら殺されたってかまわないさ!」と歌う。これはオペラの悲劇的な終わり方を予兆させることになる。編曲ではマンドラのソロとして演奏される。シシリアーナが終わった後、前奏曲の頂点からまたトゥリッドゥとサントゥッツアの旋律に戻り、二人の感情のぶつかりあいや決闘をあらわすようなAllegroの盛り上がりの後、曲頭の静かな雰囲気で曲を終える。

参考:シシリアーナ歌詞
(トゥリッドゥ)
ミルク色のブラウスを着ているローラよ、
おまえは色白だし、唇はさくらんぼのように赤い。
おまえが窓から顔を出せば、その口は微笑を浮かべている。
おまえに初めてキッスをしたやつこそ幸せ者だ!
おまえが家の中に入れば血をみるのは明らかだ
でも俺は殺されたってかまいやしないんだ、
もし俺が死んで天国に行けるとしても
そこにおまえがいないなら天国にだって俺は入らないさ。
(音楽之友社名作オペラブックス 「カヴァレリア・ルスティカーナ」「道化師」よりの引用)

第30回定期演奏会より/解説:naocchi


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