木管楽器、打楽器、マンドリンオーケストラによる「旅人の歌」
(1984)
小林 由直
Yoshinao Kobayashi(1961.8.6 yokkaichi〜)

 作者は1961年三重県四日市に生まれ、4才よりピアノを習いはじめ、四日市高校在学中より作曲を始め田中照通氏に師事した。山口大学医学部を経て、現在内科医として三重県内に勤務。医学博士。山口大学医学部時代にマンドリンクラブに入部、当時より指揮に作品発表にと活躍してきた、現在斯界で最も多くの秀作を世に問うている売れっ子作曲家である。年代的にも私たちと同時代の作曲家として、常にその作品は刺激的であり、かつマンドリンオーケストラの新たな可能性の扉を次々に開きながら斯界のリーダーとして活躍している。1999年よりギターマンドリン合奏団"meets"音楽監督を勤め、指揮作曲指導と活躍している。1985年には、『北の地平線』で日本マンドリン連盟主催、『第4回日本マンドリン合奏曲作曲コンクール』において第2位を受賞した。当クラブでは1992年の『マンドリン協奏曲』、1995年の『音層空間』と2度に渡って作品を委嘱し、初演しており、そのいずれもが従来にない「新しい響き」を追求したものとして関係者の高い評価を受けている。
 氏の作品の多くは、美しく叙情的な旋律と現代的な和声、リズム感の素晴らしい統合で構成されており、演奏者の実力を問うものが多い。しかしながら、そうした技術的な整合性だけを追求していったのでは作品全体の抒情性や構築感を損なう危険性もはらんでおり、演奏バランスが難しいのは言うまでもない。近年は「風」のシリーズや「森の精霊」などの作品で透明感ある響きにますます磨きがかかり、改めて作者の音楽が高度な技術に裏付けられた精緻な世界を築きつつあることを実感させる。
 本曲は1984年今はなきノートルダム清心女子短大マンドリンクラブの委嘱で作曲され、同年初演された氏の初期の作品中最大規模の作品。曲は大きく2つの部分に分かれる、各々は全く異なる世界を形作るが、主題の一貫性が全曲を通じて本曲に強い構築感を与えている。曲は不安と混沌の中、クラリネットが主題を無機質に奏して始まる。この主題は全編を通じて曲の中心となる主題である。曲は緊張と弛緩を繰り返しながら主題部が様々な姿に変容していく。途中シロホンがポリリズムの中でこの主題を奏したのを皮切りにこの主題の変容はその度合いを強め、フガート的展開で前半の大きな山を形成する。ギターのパートソロをはさみ、その変容は異形に膨張し、全強奏のクラスターへ突入する。この部分では各声部が咆哮を繰り返し前半を締めくくる。一転して後半部は明るい明快な楽想の連続となり、この記念すべき30周年の演奏会を締めくくるにふさわしい大団円を迎える。『旅人』は困難艱苦を乗り越えて目的地にたどり着けるだろう。曲はまさにその目的地を目の前にして走りだした喜びいっぱいの姿を描いて終結する。 

第30回定期演奏会より/解説:Yon


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