ピアノとマンドリンオーケストラのための協奏曲「響」
Concerto pour Piano et Mandoline Orchestre "Hibiki"
龍野 順義
Jungi Tatsuno(1934.11.14 〜)

 作曲者は1957年和歌山大学卒業。1958年NHKに入局し、作曲・指揮・ピアノを担当し、多くの番組を通して、ドラマ、ドキュメンタリー、学校放送、特集番組等の音楽を多年にわたり担当。文化庁芸術祭優秀賞等受賞。1977年大阪芸術大学専任講師を経て1993年より教授。NHKのピアノリサイタル等、また数少ないオンド・マルトノ奏者としても演奏活動は多い。作品として第39回奈良「わかくさ国体」の開会式、集団演技の音楽、交響詩「大和しうるはし」、ピアノ協奏曲「響」、弦楽四重奏曲「ヤナーチェクの泉」、幻想曲「モラヴィアにて」など、他ヴァイオリン、ピアノの小品も多数作曲している。マンドリン合奏作品には本曲の他に「3つのアラベスク」、マンドリン・オーケストラのための「心象」(Image)の2曲があり、いずれも神戸大学マンドリンクラブにて初演された。
 本曲は1982年神戸大学の委嘱により作曲された作者2番目のマンドリン合奏作品。曲は3つの楽章から成り、現代的な和声と美しい旋律が巧みに融合された、マンドリン合奏作品としてはあまりないピアノ協奏曲の形式をとっている。特に独奏ピアノには即興性も盛り込まれ、奏者のイマジネーションを喚起するものとなっている。第一楽章は不安げなLentoに始まり、低音楽器が混沌とした響きを模索し始める。突如静寂を破るようにピアノが不協和音を叩きつけて曲は動き始める。イ短調で奏される第一主題はもの悲しく、メランコリックでピアノから弦楽器群に引き継がれ朗々と謡われる。軽快な旋律のAllegro Marcatoのあとには、本曲の白眉とも言える美しい2つめの主題がピアノのアルペジオに乗って展開される。この旋律は作者の面目躍如たる代表的なモチーフで、他の作品にも転用されている。いくつかの展開の後第一楽章は急速に展開し、ピアノの強打を伴って突如終わる。こうした第一楽章の独奏ピアノには特に作者がオンド・マルトノ奏者であることを感じさせるフレーズも多く、非常にドラマティックな内容に仕上がっている。第二楽章は一転して民族的な旋律に彩られた緩徐楽章。この楽章には作者が渡欧し、チェコに学んだことを彷彿させる要素がたくさん詰まっている。第一主題はスメタナのモルダウを思わせるもので、中間部のPrestissimoなどにもモラヴィア風の旋律が伺われる。 哀愁漂うこうした旋律には作者の叙情性が民俗音楽に根付いたものでありながら、現代性と融和し見事に表現されている。雄大なスケールのピアノの分散和音に始まる第三楽章は第一、第二の二つの楽章を引き継ぎながら、それらを主題的にもリズム的にもまとめあげる壮大な作品となった。現代性と民族性を、古の良き時代のグランドスタイルで統合するかのようなこうした作品は他に類をみないものである。
 この作品は、必ずしもマンドリンオーケストラの特性を十分に活かしたとは言い切れないが、こうしたスケールの大きな作品にはなかなか出会うことができないのが事実で、こうした作品が再演されずに埋もれて行ってしまう事がマンドリンオーケストラがこじんまりと地味に流布してしまう事にもつながっているのかもしれない。本日は増井めぐみさんという最良のパートナーを得て、この「響き」が約20年ぶりにブリリアントに鳴り渡ることを皆さんにも楽しんでいただきたく思う。

第31回定期演奏会より/解説:Yon


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