FRAGRANCE-β
フレイグランス-β (2002)
歸山 榮治
Eiji Kaeriyama(1943.5.25 Ono〜)

 作者は1943年福井県大野市に生まれ、62年名古屋大学文学部入部と同時にギターマンドリンクラブに入部、一年後指導者となった。その後中田直宏氏に作曲を学び、クラブ内外で編曲を含め多くの作品を発表してきた。またチルコロ・マンドリニスティコ・ナゴヤをはじめとして、大学・社会人のマンドリン団体を数多く指導しており、現在日本マンドリン連盟中部支部理事、東海音楽舞踊会議運営委員長をつとめる。作品は多岐に渡り、マンドリン合奏曲以外にも吹奏楽曲、邦楽曲、合唱曲、劇音楽、舞踊音楽など多くの作曲、編曲活動に携わっている。近年では中国民族音楽やアボリジニに伝承される音楽などにも造詣を深めており、海外でもその作品は紹介されている。1981年名古屋市芸術奨励賞授賞。マンドリンアンサンブル「Eschue」主宰。マンドリン合奏以外ではギター合奏に継続的な作品が書き下ろされており、現在10数曲を数えている。
 氏の作品は、その中核に=現代社会の人間疎外の憂鬱の中で『人間の持つ宿命的な淋しさ』をしっかりと見つめいかにして人間らしく生き抜くか=という思想を内包しながら、時代を反映しつつ、また氏自身の内省を伴って熟成を重ねてきた。近年の作品はいずれも枯淡の境地ともいうべき、滋味溢れる静謐な作品が多かったが、昨年突如として、氏の若書きを彷彿とさせる本作が生まれた。氏の作品は再びその根源的命題である『人間らしさ』の追求に向かっているようだ。
 本作は2002年Ensemble ESCHUEのために書き下ろされた作品で、JMU中部マンドリンフェスティバル、ESCHUE・MOUSA・MTC合同ステージで初演された。Ensemble ESCHUEは帰山氏自身を合奏指導者に迎えて、「マンドリン合奏道場」として1997年に活動を開始した異色の団体で、本日も同団体のメンバーが討ち入りと称して合奏に加わってくれている。奇想曲風(カプリッチョ)に書かれており、タイトルとして「ファンタジア・カプリッチョ」「カプリッチョ02」などを候補にあがっていたとのことであるが、曲から引き起こされるβ波(緊張時・ストレス時に発せられる脳波)をイメージし、最終的には「FRAGRANCE-β」と名付けられた。氏の作品には「FRAGRANCE-α」というギター合奏曲があり、こちらは緊張感の中にも安らぎ(α波)を感じさせてくれるが、本曲は相当に緊張感(β波)に満ちたものである。曲は急-緩-急の三部構成となっており、最初の「急」部分はアウフタクトで始まるモチーフを多用する跳躍の激しいメロディーで示され、「緩」の部分は「静」に始まり「動」を経て再び「静」に戻る。最後の「急」は変拍子のモチーフを挟みながら、エネルギッシュなメロディーを繰り返し、一気に頂点に達する。技術的な手心は加えていないという氏の言葉通り、楽譜を見ただけでもβ波が発っせられる難曲であるが、昨今の「円熟」とは異なる「熱さ」と「若さ」に満ちた本曲はファンにはたまらない作品である。
(一部Ensemble ESCHUE編による本曲の解説資料を参照しました。)

第31回定期演奏会より/解説:Yon


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