序曲「過去への尊敬」
Ouverture "Omaggio al Passato" (1921)
ロドヴィコ メッラーナ=フォークト 作曲 /歸山 榮治 編曲
Lodovico Mellana=Vogt

 作曲者のL.M.フォークトは、スイスのイヴェールドンにて長年マンドリンの教授をしており、後年はローザンヌに移り住んだといわれている。ただ、生年・没年ともに不明であり、詳しいことはあまり知られていない。代表作品としては、本曲のほか、「山岳写景(Scene Alpesti)」などがある。
 
この「過去への尊敬」は、1921年にイルプレットロ誌主催の第3回作曲コンクールにおいて第一位入賞を果たしている。曲名はコンクール応募当時、「Lavoto ed Arte(創造と芸術)」であったが、出版される際に現在の曲名に変わったようである。
 
曲は、Allegro non troppo(2分の2拍子)のダイナミックで力強い旋律から始まり、静寂なPiu Lentを経て、Allegro Meno mosso の甘く、どことなく切ない旋律へと引き継がれる。その流れは、いつも誰かに急き立てられているかのような「現在」という時代に、突如、天使が舞い降りてきて、甘く、懐かしく、そして時の流れが緩やかな「過去」記憶へと誘ってくれているかのようである。しかし、そんな至福の時間が長く続くことはなく、再び「現在」という厳しい時代に引き戻されてしまうのだが・・・。中間部には、Andante(8分の9拍子)で、前述のAllegro Meno mossoとは別の「過去」の記憶へと誘うかのような旋律が奏でられ、全体を通して、対照的な2つの主題による「現在」と「過去」を繰り返しながら、最後のPiu Mossoで幕を閉じる。
 
今回の演奏では、当時の出版譜ではなく、帰山栄治氏による編曲版を使用する。本編曲では、随所の音で担当パートの見直しが図られていたり、オクターブで音を重ねる処理がされており、原版とは異なった厚みのある響きが得られている。また、原版では第一マンドリンとマンドラによる掛け合いがよく出てくるが、そのスレーズについても、それぞれ、第二マンドリンおよびマンドセロにも割り当てられており、アンサンブルとしても、より面白く、かつ高度な技術が必要となっている。ちなみに、本編曲ではギターパートが完全2パートに分割されている。

第32回定期演奏会より/解説:Ozawa


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