Ouverture Historique No.2
(1978)
歸山 榮治
Eiji Kaeriyama(1943.5.25 Ono〜)

 作者は1943年福井県大野市に生まれ、62年名古屋大学文学部入部と同時にギターマンドリンクラブに入部、一年後指導者となった。その後中田直宏氏に作曲を学び、クラブ内外で編曲を含め多くの作品を発表してきた。またチルコロ・マンドリニスティコ・ナゴヤをはじめとして、大学・社会人のマンドリン団体を数多く指導しており、現在日本マンドリン連盟中部支部理事、東海音楽舞踊会議運営委員長をつとめる。作品は多岐に渡り、マンドリン合奏曲以外にも吹奏楽曲、邦楽曲、合唱曲、劇音楽、舞踊音楽など多くの作曲、編曲活動に携わっている。近年では中国民族音楽やアボリジニに伝承される音楽などにも造詣を深めており、海外でもその作品は紹介されている。1981年名古屋市芸術奨励賞授賞。マンドリンアンサンブル「Eschue」主宰。マンドリン合奏以外ではギター合奏に継続的な作品が書き下ろされており、現在10数曲を数えている。本年11月には還暦を祝う「カエリヤマ・ファイナル・コンサート」が予定されている。
 氏の作品は、その中核に=現代社会の人間疎外の憂鬱の中で『人間の持つ宿命的な淋しさ』をしっかりと見つめいかにして人間らしく生き抜くか=という思想を内包しながら、時代を反映しつつ、また氏自身の内省を伴って熟成を重ねてきた。現代の様々な矛盾や束縛の中を生きている我々を、ある時は厳しく諭し、またある時は優しく包む、それが氏の作品、殊に歴史的序曲の系譜が持つ魅力である。
 本曲は1978年、名古屋大学ギターマンドリンクラブの東京公演にあわせ、前作のOuverture Historiqueを改作したものとして発表された。Ouvertire Historiqueには本作の前に原曲を改訂したものも残されており、こちらは大幅な「改作」をもって第2番となった。原曲にあった崩壊を恐れずに突き進むエネルギーは後退し、必要なエッセンスを抽出、凝縮し、熟成を重ねたと言ってもいいだろう世界観がここにある。
 地の底から沸き上がるような低音群がただならぬ状況を告げる。静まったあと唐突に姿を表す攻撃的とも言える第一主題は5/8拍子でいびつな世界を形成する。緊張と弛緩を繰り返し収斂すると、次に現れる第二主題は対照的なまでに平易な世界をかいま見せる。しかしこれこそが歴史的序曲の系譜を結ぶ寂寞感の表出である。表に見える平穏とその背後にある鬱屈した閉塞感こそが、本作のもつ『宿命的な淋しさ』と『人間存在の矛盾』を描き出している。突然断ち切られて現れるのは三つ目の主題である。理解され得ない自分自身の行き場の無い焦燥感、崩壊寸前の自我やそれに相反する形での解放がそこにある。その熱いたぎりがどこに向かっていこうとしているのか、我々はわからないまま走り続けている。帰山作品に傾倒する者は、作品に内在していながら声高には主張しない、出来ない孤独な男の独白に惹かれ、私たちもまた氏の作品に多くの示唆を与えられ続けている。

第32回定期演奏会より/解説:Yon


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