ピアノとマンドリンオーケストラのための「バラード」
(1984)
内藤 淳一
Junichi Naitou(1956. Sendai〜)

・.Prologue(プロローグ)
・.Nocturne(ノクターン)
・.Ballade(バラード)

 作者は仙台に生まれ、宮城教育大学を経て、吹奏楽指導者として現在仙台市市民文化事業団評議員をつとめる。作曲を本間雅夫氏に師事し、代表作として1983年度全日本吹奏楽コンクール課題曲に入選の「吹奏楽の為のインベンション第一番」、2001年同コンクール課題曲である「式典のための行進曲〜栄光をたたえて」など、吹奏楽界においては作品、指導とも精力的な活動を展開しており、平成12年度宮城県芸術選奨新人賞を受賞している。斯界においては本曲の他、「マンドリンオーケストラの為の組曲第1番、第2番」、柳田隆介、宍戸秀明両氏と連作をなした「ボカリーズII」がある。
 本曲は氏のマンドリン合奏曲としては初めての作品で、3つの楽章からなる協奏的作品。3つの楽章は各々独立性が強く、単独の楽章での演奏も可能となっている。氏の作品の特徴である「明快さ」「ロマンティシズム」「物語性」といったテーゼが、3つの楽章にそのままあてはめられており、初めてマンドリン合奏に触れる方にも非常に優しい作品と言えよう。
 第1楽章は歯切れのよいアレグロ、氏の得意とする「マーチ」系の小品。第2楽章は独奏ピアノによるモノローグ的な導入部から、分散和音に乗せてユニゾンの美しい主題が展開される夜想曲。夜想曲といえば、アイルランドの作曲家ジョン・フィールドが創始者でショパンが完成させた夢幻的な作品を言うが、特徴としては静かな抒情に溢れた主楽節と、やや激情的な中間楽節からなり、アルペジオに乗せて幽玄な分散和音を得るものだが、本作もまさにその粋を究めた作品。この旋律は単純でいながら自由に、聴衆の想像力を喚起させる事の出来る秀作で、町灯りの気にならない郊外に行って、町の頭上に架かる星たちのようなきらめきを感じる方もいるだろう。第3楽章は本曲のタイトルともなっている「バラード」。バラードは「譚詩曲」と訳され、譚(はなし)という訳語のように音楽による物語を意図している。叙事的な想念を念頭において作られたと考えることができ、本曲もまた作品全体の中核をなす劇的な内容をもっている。幾度かのソロスティックな楽節とたたみかけるような熱情的な音塊が特徴といえる。

本曲の演奏にあたっては昨年は龍野順義氏のピアノ協奏曲「響」で情熱的な『赤』を描き出した増井めぐみ氏に独奏をお願いした。作曲家でもある増井氏は金子みすゞの詩に書き下ろした連作でも知られるように、詩的なイメージを音にする「バラード唄い」である。作者お膝元の演奏において幾度と無く名演奏を聞かせていた、平間百合子氏とはまた違ったロマンティシズムを『今年は何色で』描き出してくれるのか、我々も一緒に楽しみたい。

第32回定期演奏会より/解説:Yon


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