加賀城浩光作品編曲集
加賀城 浩光/笹川哲哉 編曲
Hiromitsu Kagajyo(1961.8.23 Miyazaki〜)

 作者は1961年宮崎県生まれ。2001年まで広島に在住し、マンドリンバンド「ブルーメサ」、マンドリンとギター、あるいは自らが発案し宮崎在住の楽器製作家・米丸健二氏と共同開発した楽器であるマンドチェロ(音域はマンドロンチェロと同様だが、構造はギターに近い)とのデュオ「アコースティック・ボーイズ」での活動、楽団「プロムナード」主宰等の活発な活動を行ってきた。現在、福岡に在住し、作曲・編曲活動及びマンドチェロ奏者として活動すると共に、各地の大学等で演奏指導を行い後身の育成にも力を注ぎ、又「Ji-CLUB」なる一種の音楽クラブを主宰し、自らの音楽を通し、全国の演奏者と交流を持つなど、活発な活動を続けている。合奏作品として「プロムナードI〜VII」(VIIIを執筆中)、「組曲」シリーズ、「前奏曲」シリーズ、他に小品あるいは独奏曲・二重奏曲を多数作曲されている。
 当初、合奏曲を多く書かれていた氏ではあるが、近年は「マンドリン音楽の新ジャンルを生み出す」と言う理念の元、マンドチェロを使用した独奏曲や、マンドリンとマンドチェロの二重奏曲を主とした作品を多く発表している。マンドチェロにおける変則チューニング、タッピング奏法、スラッピング(チョッパー)奏法、フィンガーピッキング奏法、等の導入で、楽器の可能性を極限まで追求し、氏独特の甘く美しいフレーズと共に独自の世界を作り上げることに成功している。
 今回、編曲にあたっては、基本的な理念として、原曲のイメージを極力損なわないように気をつけたのは当然の事、一方で、独奏ではなし得ない、合奏ならではのシンフォニックな効果を引き出すことにも気をつけているつもりである。又、マンドリン2部・マンドラ・マンドロンチェロ・ギター・コントラバス(ad lib.でマンドローネ)の一般的な編成の採用、及び原曲で使われている変則チューニングやタッピング等の特殊奏法は一切排除し、一般的なマンドリンオーケストラ(あるいはアンサンブル)をターゲットとして編曲してある。

「Revolution」(2002)
 氏のマンドチェロ独奏CD「CGDG」(現在は完売絶版)の中で、極めて強い印象を残す、「マンドチェロ奏者・加賀城浩光」の代表作と言っても過言では無い曲。
 「学生時代にマンドリン音楽をやりながらもバンド活動に憧れていた頃の気持ちを曲にしており、どこか古いロック音楽の雰囲気を持っているように思います」との氏の言葉が語るとおり、ストレートな熱情が表現されている。CD内ではディストーション(音を歪ませるエフェクター)がかけられ、よりロック色を強くしている。

「悲しいマリオネット」(1997)
 氏の作品集CDである「WORKS」(ジジ音楽工房HP(※1)より好評発売中)に収められている。初期のアコースティックボーイズのレパートリーであり、原曲はマンドリンとギターの二重奏。もの悲しくも美しいメロディが印象的な曲である。
 「マリオネットにもきっと心があるでしょうね。子供の頃一緒に遊んでいた時は、マリオネットとお話ができたのに、大人になるとマリオネットの声は聞こえなくなってしまいます。そんな大人になった私達に無言で語りかけるマリオネットの気持ちを曲にしてみました。」(加賀城氏談)

「YATOGI」(2004)
 同じく「WORKS」に収められている。原曲はマンドチェロ独奏。「YATOGI」とは宮崎県児湯郡都農町の「矢研の滝」(やとぎのたき)のことである。都農町の名貫川上流には多くの支流があり、それらが尾鈴山中で大小30余の瀑布群を形成している(尾鈴山瀑布群)。その中でも最も有名な滝が「矢研の滝」であり、日本の滝100選にも選ばれている。日向国から東征し、大和朝廷を開いたとされる神武天皇が、東方へ向かう途中、この滝で矢を研いだ、という言い伝えから、この名で呼ぶようになったと言われている。
 本曲は、氏がこの滝を訪れた時の印象。駐車場から滝までの30分程度の道程を歩き、瀑布群の中の一つを矢研の滝と勘違いしたこと、矢研の滝にて水が滝壷に流れ落ちていく情景、名残を惜しみつつ帰路に着く様子等が、時にユーモラスに、時に鮮烈に、時に郷愁を漂わせて表現されている。

「UDO」(2002)
 「CGDG」に収められており、CDの最後を飾る曲であると共に、氏のライブでも最後の曲となることが多い曲である。「Revolution」と並ぶ、氏のマンドチェロ独奏曲の代表作と言える。
 「UDO」とは宮崎県日南市宮浦地区の鵜戸崎と呼ばれる地に存在する「鵜戸神宮」(うどじんぐう)のことである。海岸の断崖の海蝕洞窟の中に本殿が建つという特異さがよく知られ、目の前の磯辺には奇岩群があり、日南海岸の荒波が打ち寄せる。磯辺の奇岩群でひときわ目を引くのは、亀の形をした亀石桝形岩であり、その背の部分には注連縄で囲まれた桝形の窪みがある。それをめがけて「運玉」を投げ入れ(女性は利き腕、男性は利き腕と反対の腕で投げる)、見事に中に入れば願い事が叶うという。
 本曲は、神秘的かつ荘厳な印象を持つ神宮を前半部分が、打ち寄せる荒波を後半部分が表現している。後半部分はどこか津軽三味線にも似た雰囲気があり、実際氏曰く「3本の弦であれだけ表現できる三味線に対して、8本の弦(8弦4コース)を持つマンドチェロが表現できないわけは無い」との対抗意識?から作られたとのことである。

※1 加賀城浩光・ジジ音楽工房 http://www.h4.dion.ne.jp/~jiji-m/

第33回定期演奏会より/解説:えぞ


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