喜歌劇「ぶどう畑の恋」〜組曲 op.38
Amore tra i Pampini,op.38〜Suite in 4 Tempi (1927)
ジュリオ・デ=ミケーリ  作曲 /松本 譲 編曲
Giulio De=Micheli(1889.9.26 la Spezia 1940.9.30 Como〜)

 作者はイタリア北部のリグリア州ラ・スペツィア生まれの作曲家でヴァイオリニスト。5歳の頃からヴァイオリンを学び、15歳で学位を取得し後、パルマのボイト音学院に移りロメオ・フランツォーニ氏に師事した。5年後には最高の成績で教授の資格をとったが、そのまま音学院に残り、イターロ・アッツォーニ氏に師事して対位法を学んだ。26歳の時にブリュッセルのトムソ音楽学校に入学し、ヴァイオリンのヴィルトゥオーソとして大賞を得たのに続き、チューリヒ音学院校長のアンドレア・フォルクマー氏に師事し作曲を学んだ後、1927年には病の為、イタリアに帰国し、生地に定住して作曲、音楽評論などにも活躍した。またヴァイオリニストとしてもヨーロッパの多くの都市や果てはエジプトにまで演奏旅行を行い、各地で成功を収めた。晩年はベルガモ近郊のコモに移り住み、没したが、コモの街では彼を追悼して、街の通りに彼の名を冠して偲んだ。彼の墓地には『いつも枯れる事のない美しい調べの創造者、マエストロ・ジュリオ・デ=ミケ ーリ、この家に眠る。生誕地ラ・スペツィアの誇り、彼が眠るコモの誇り。』と碑文が刻まれている。彼は芸術的価値だけでなく、その人間性をも讃えられた結果、『真実の詩人』となりえたのだろう。                   
  作品の数は約160曲を数え、その多くが管弦楽の為の作品で、当時彼の作品をレパートリに入れないオーケストラは無い程だったといわれている。その作品の全貌は作者の遺族から石村氏に送られた資料で明らかになりつつあるが、代表作には小組曲のシリーズを始め、「舞踏組曲」、「アルカディア組曲」、「エジプトの幻影」等、15の組曲や、2つの交響的前奏曲、8曲のオペレッタ等がある。
 彼の音楽の根幹をなす特徴は『詩的な音楽』であり、半音階的な手法と叙情性の絶妙のパランスは特筆に値するものである。景色、詩、太陽の光、鐘の音、絵画など全てが彼の着想の為に存在し、彼は常に思いついた楽句を身近な(紙巻き煙草の包みにまで)紙に書き付け、インスピレーションを膨らませたという。また後年にはその音楽芸術は教会音楽の方面でも発揮され、四曲のミサ、宗教的詩曲、レクイエム、などが発表されている。

 本曲は出版で作者を支えた、カルロ・ベルトラーモの脚本で、1927年に出版された全三幕のオペレッタで、もっとも意欲旺盛な時代の作品である。このオペレッタは1860年頃の農村を舞台にした、ぶどう摘みと少女の恋物語で、作者の代表作として当時、何度もラジオで放送されたらしい。早世した作者の愛息エンリコが存命中に献呈されたものでもあり、幸せのさなかの音楽である事が伺える。その直後に病魔に侵され生地に隠遁する事を思う時、本作に続く作品番号39を冠されながら、本作とは正反対に内面的で深遠な名作『第三小組曲』がもつ『陰』と本作の持つ『陽』の対比は心を打つものがある。素材的にはおおらかで愛らしいフレーズの連続で、メロディストである作者の面目躍如と言える。編曲をした松本譲氏は5つの楽章にこの作品をまとめたものの、第3楽章の『愛のワルツ』はこれまた美しいアリアであるが音楽的題材が1楽章や4楽章と重なる事もあり、これを割愛して、本日演奏する4つの楽章にまとめあげた。終結部には石村隆行氏が加筆した堂々たるコーダを用いる場合もあるが本日は原曲の色合いを優先し、マーチのまま終結する松本氏の版を選択した。

1.Preludio e Coro della Vendemmia (前奏曲とぶどう摘み達の合唱)
 第一幕の前奏曲からこれに続く開幕の合唱。冒頭より匂い立つような濃厚な ロマンティシズムの極致で、一気に作者の世界に引き込まれる。後半のワルツも情緒連綿たる旋律美で、ホールには豊熟した葡萄の高雅な香りが溢れるようである。

2.Marcia della Vendemmia (ぶどう摘み達の行進曲)
 第二幕へ続く部分での場面転換での行進曲風の合唱曲。こうした小曲はいくつかの小組曲の中でも見られるように、情景を描く詩人としての作者の得意とするところ。

3.Valzer d'Amore 〜 愛のワルツ(編曲者により割愛) )
 第一幕のフィナーレでヒロインのサビーナと主人公のエンリコが歌う二重唱。前奏曲の旋律に始まり、夕映えに晩鐘の響く中、愛を語り合う二人の高まり。

4.Romenza della Nostalgia(郷愁のロマンス)
 第一幕でヒロインのサビーナが歌うアリア。これぞ作者の『詩的音楽』の神髄といえよう。ハープの分散和音とオルガンのハーモニーに載せて歌われる旋律のなんと甘美で美しいことか。この音楽と出会った事を感謝せずにはいられない落涙の逸品。

5.Finale 〜 終曲
 第二幕のフィナーレ。序奏に始まりサビーナとエンリコの二重唱から、他のぶどう摘み達も入り乱れての華やかな愛の夕べの様子を描く。どんどん場面が展開されて息をつく暇もないほどの絵巻物のような楽しい音楽。物語に出てくるフレーズや動機を巧みに組み合わせて飽きの来ない素敵なフィナーレとなっている。

第33回定期演奏会より/解説:Yon


>>Home >>Prev >>Return >>Next