第十小組曲「ナポリ風組曲」作品108
Zehnte kleine Suite Neapolitanische Suite op.108
ジュリオ・デ=ミケーリ/石村 隆行 編曲
Giulio De=Micheli1889.9.26 la Spezia 〜 1940.9.30 Covo

1.ポジリポの夜明け Morgendämmerung in Posillipo
2.ソレントの朝焼け Morgenröte in Sorrento
3.サンタルチアの酔っぱらい達の踊り Landstreicher Tanz in Santa Lucia

 作者はイタリア北部のリグリア州ラ・スペツィア生まれの作曲でヴァイオリニスト。5歳の頃からヴァイオリンを学び、15歳で学位を取得し後、パルマのボイト音学院に移りロメオ・フランツォーニ氏に師事した。5年後には最高の成績で教授の資格をとったが、そのまま音学院に残り、イターロ・アッツォーニ氏(第二小組曲献呈)に師事して対位法を学んだ。26歳の時にブリュッセルのトムソ音楽学校に入学し、ヴァイオリンのヴィルトゥオーソとして大賞を得たのに続き、チューリヒ音学院校長のアンドレア・フォルクマー氏(第三小組曲献呈)に師事し作曲を学び、同地の管弦楽団の指揮者となった。しかし1927年には彼の宿病となった狭心症を発症。友人の出版社社長カルロ・ベルトラモの勧めでイタリアに帰国し、演奏活動をやめ、生地に定住して作曲活動に後半生を捧げた。晩年はベルガモ近郊のコヴォに移り住み、持病の発作で没した。コヴォの街では彼を追悼して、街の通りに彼の名を冠して偲び、彼の墓地には『いつも枯れる事のない美しい調べの創造者、マエストロ・ジュリオ・デ=ミケーリ、この家に眠る。生誕地ラ・スペツィアの誇り、彼が眠るコヴォの誇り。』と碑文が刻まれている。
 作品の数は約160曲を数え、その多くが管弦楽の為の作品で、当時彼の作品をレパートリに入れないオーケストラは無い程だったといわれている。その作品の全貌は作者の遺族から石村氏に送られた資料で明らかになりつつあるが、代表作には「舞踏組曲」、「アルカディア組曲」、「エジプトの幻影」等、15の小組曲や、2つの交響的前奏曲、8曲のオペレッタ等がある。
 彼の音楽の根幹をなす特徴は『詩的な音楽』であり、夢幻的な和声や半音階的な手法と叙情性の絶妙のバランスは特筆に値するものである。景色、詩、太陽の光、鐘の音、絵画など全てが彼の着想の為に存在し、彼は常に思いついた楽句を身近な(紙巻き煙草の包みにまで)紙に書き付け、インスピレーションを膨らませたという。また後年にはその音楽芸術は教会音楽の方面でも発揮され、4曲のミサ、宗教的詩曲、レクイエム、などが発表されている。 

 本曲はミケーリの作品でありながらベルリンで出版された為、ドイツ語タイトルとなっているが作品としては、第11小組曲である「エジプトの幻影」の直前の作品で、彼の作品の中では小品の部類に入るものである。3つの楽章はいずれも慎ましやかな歌心に満ちて書かれており、作者後年の作品らしい卓越した手法に彩られている。第一第二楽章は叙景的なムードを持った小品で特に二楽章のバルカローレ風の幻想的なハーモニーは作者の面目躍如といった趣で魅力的な旋律に溢れている。第三楽章は酔っぱらいの踊りと称しているが、器楽的なまとまりはぎりぎりのところで俗っぽさに陥らない品のよささえうかがわせるものである。

参考文献:
南谷博一『マンドリン辞典』
同志社大学マンドリンクラブパンフレット
中野二郎:『いる・ぷれっとろ』

第34回定期演奏会より/解説:Yon


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