微風〜遠い夕暮れ
(初演) (2003)
舟見 景子
Keiko Funami(1959.4.28 Ishikawa 〜)

 作者は富山大学マンドリンクラブでマンドリンパートに所属。現在養護学校に勤務するかたわら、「金沢マンドリン・アンサンブル」「小次郎組」で活動、1993年より同団体のために、「もののけ姫」などの映画音楽の編曲を手がける。1999年、本格的な作品としては最初の「Impression1999」をNifty-Serve(当時)のクラシックMIDIフォーラムで発表、2000年の北陸三県合同定期演奏会にて初演し、この作品はたちまち全国規模での人気を博すこととなった。躍動感にあふれ、瑞々しい色彩に富んだこの作品は『素直に感動でき』『合奏の楽しさ』を再確認させてくれる作品として、現在では学生から社会人まで広くレパートリとなっている。また昨年には「Impression 2」を発表、当団にて初演を行い、これもまた、より挑戦的な作品として、全国での再演が相次いでいる。彼女の作品の魅力はなんといっても『前向き・明るさ・力強さ』であり、生きざまそのものを音楽表現している点で、共感を呼ぶものである。

 本作品は03年に書かれてまだ演奏されたことがない、上記とはまた異なる彼女の一面を描いた作品。過ぎていく時間の中での自らの位置づけや存在感を考えた時のアンニュイな、自分だけの、言葉にできない空間。モノクロームの風景、グラデーションはモノトーンのスケールにだけ変化する回想。皆様もご自身のおかれた日常をふと別の自分になって、別の視点から眺めている、そんな感覚にとらわれたことがあるのではありませんか?

【作曲者記】
「微風〜遠い夕暮れ」によせて
 2003年の秋の日。5階の病窓からは国道が見えました。その向こうに田圃や町、遠くの山並み。そして視界には入らないけど、その方向には私の勤める学校があります。夕方の国道は軽くラッシュを迎え、信号に合わせて車の列がゆっくり流れたり停まったりしています。そんな日常の様子が無言で流れていくのを見ていました。
 もしここにいなかったら、今頃の私はあの風景の中にいるはず。職場を出て買い物を済ませ、子供達の待つ家へと車を走らせているかもしれない。あの信号を待つ車の列の中にどうして私は居ないんだろう。自分が居るはずの風景を眺めるのは、もう一人の私を捜すような不思議な感覚でした。
 秋の山は夕陽を映して刻々と色を変え暮れていきます。私が居なくても、日々は何事もなく淡々と営まれている、そんな安堵感。毎日平凡に過ぎることの有難さ。そして疎外感。あの風景の中に戻れるのかという、微かな揺らぎ。 ・・・そんな想いでずっと見ていたのでした。
 この曲は今でも私をあの日に帰してくれます。失くしたものへの惜別、同時に一つの出発点だったのかも知れません。

第34回定期演奏会より/解説:Yon


>>Home >>Prev >>Return >>Next