組曲「杜の鼓動」(管楽器・ハープを含む改訂新版)
(2003→2006改訂)
丸本 大悟
Daigo Marumoto(1979 Osaka〜)

 作者は1979年大阪生まれで、高校時代のバンド活動を経て、大学入学時より龍谷大学マンドリンオーケストラに在籍、マンドラ首席奏者としてマルチェロの協奏曲を演奏。卒業後は ARSNOVA Mandolin Orchestraを経て、2005年よりARTE MANDOLINISTICA首席マンドラ奏者。作曲活動は高校時代から開始、大学時代にはマンドリン合奏曲「夢」が初演された。その後、ARSNOVA Mandolin Orchestra解散公演で演奏された「ARSNOVA組曲」(末廣健児氏との共作)や、本日演奏する東北大学マンドリン楽部委嘱の「杜の鼓動」、梅花女子大学からの編曲委嘱などを手がける等精力的に作曲活動を行ってきた。2004年4月には自作品によるオリジナルコンサートを初めて開く他、複数の合奏団で委嘱作品を発表している気鋭の作曲者である。

 本曲は当初3つの楽章がそれぞれ単独に初演(第一楽章は東北大学と名古屋大学のジョイントコンサート、第二楽章は京都の社会人アンサンブルLa Febbre Leggeraの定期演奏会、第三楽章は東北大学の定期演奏会)されたという経緯をもつが、短期間で書かれ、いずれも同一のモチーフを有しているという興味を弾く出自をもった作品である。

1.欅の風景
 「欅の風景」において、「杜」は「森」であり、森における1日の始まりと終わり、中間部では躍動する自然を描いています。特に初演された場所、仙台のケヤキ並木の風景を曲想としています。

2.魂の還る場所
 「魂の還る場所」での「杜」は、その本来の意味「神社や寺院の周りの森」で、これは初演された場所が、今なお「杜」の多く残る京都であったことによります。

3.街の灯
 「街の灯」は、都市でビルの立ち並ぶ様を「森」と比喩する所から曲想を得ました。人工的な建造物の立ち並ぶ森、自然の動植物達の住む森、そのどちらもが人には必要であり2つの森はせめぎあいながらも融和を図ろうとします。

という作者の楽曲紹介をさらに詳しく語ってもらったところ以下のような寄稿をいただいたので紹介したい。

 『主なモチーフは「開始音→2度下行→2度上行〜」「開始音→4度上行→4度上行〜」の2つですが、前者は安定や穏やかさを、後者は躍動感をイメージしており、その二つのモチーフの組み合わせで、以下の3つ楽章のテーマを表現したいと考えました。

 “1楽章:自然の風景  2楽章:自然と人との調和  3楽章:自然と人とのせめぎあい”

 3つの楽章を通して演奏する事によって、1つの楽章のみで聴くよりもそれぞれのテーマがより鮮明となり、一方で他の楽章が再現される部分では、各楽章の関連を感じていただき、3つの楽章を一つの大きなストーリーとしても聴いていいただく事ができるのではないかと思っています。
 オーケストレーションにおいては、独奏で用いられる奏法、他の弦楽器や、同じ楽器でも別のジャンルの曲を演奏する際の奏法などをいくつか取り入れてみました。ギターパートは「旋律を演奏させる」より、「効果的な伴奏」で活躍できるよう気を配りました。また、マンドリンオークストラの楽器の中で、「それのみ」で一番良い音がするのはギターの独奏の音だと個人的に感じていて、この曲もギターの独奏部が多くあります。美しい音色でこのソロを演奏していただけた時には、心から幸せな気持ちになります。』

 このようにそれぞれの楽章を単独で演奏可能としながらも、やはりこれら3つの楽章を同時にかつ有機的に関連性を表出して演奏することには大きな意味合いがあると感じる。今回の演奏にあたっては、従来本曲で知られていた、@初演でのフルート付きの初稿、A関西大学での演奏の際にクラリネットを加筆した稿、B現在広く演奏されている、弦楽のみに改訂された稿、の3つの異版に対して、B稿に管楽器を校訂しなおして加え、更に、マンドローネとハープを加えて、より彩りを豊かにした新訂版としてまとめなおしていただいた版を使用する。特にハープの追加にあたってはより効果的な使用方法について、作者も大きな苦労をいただいており、本曲の最大の魅力である『心をうつ旋律の美しさ』を彩って、どのような響きになってお披露目されるか大変楽しみである。

 【作曲者記】
 この曲は私にとっていつも「新しい経験」をさせてくれる曲です。初めて作曲委嘱を受けて作った曲で、初めて管楽器を用いたのもこの曲でした。そして、本日演奏していただくのはマンドリンオーケストラに管楽器・マンドローネ・ハープを加え、全体を作り直したものです。ハープを扱う事自体も初めてですし、これほど大きな編成の楽譜を書く事も今まで経験した事がありませんでした。拙い部分も多くあると思いますが、未熟な私にこのような貴重な機会を与えてくださったコンコルディアの皆さんに、心より感謝しています。この曲に手を加えるのは今回を最後にしたいと思っています。最後の“新しい”「杜の鼓動」、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

第34回定期演奏会より/解説:Yon


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