バラータ・パストラーレ
Ballata Pastorale(1983)
星 義雄

 作者は北海道で活躍中の作曲家。北海道で生まれ育った作者の創造理念には『メイド・イン・ホッカイドウの独創的な音楽を書きたい』という思いが流れており、『地』に根ざした資料の収集や研究を重ねている。そして『人から教えられたものではなく、自分の中から湧き出てくるものを音楽にするのでなければ意味がない』という思いは、北の地の土臭さや、根源に流れる民族として血の濃さを感じさせるものとなっている。氏の作品は北海道では幅広く演奏されており、学生団体にも一般的なレパートリとして浸透しているが、おそらく北海道以外で演奏されるのは初めてではないかと思われるほど知られていない。今回本曲を取り上げるにあたっても氏からは思いのこもった演奏への期待をうかがわせる手紙をいただいた。
 本曲は寂寞とした大地をあらわしたかのような、ゆったりした Largoの主題と独奏カデンツァ、蛮勇で推進力を感じさせるオスティナート風の Allegro con brio の3つの主題が繰り返し登場する。途上にはギターの分散和音に乗った Allego 主題の変形が美しく奏でられるが、この主題を支える低音部を中心とした雄大な和声感は圧巻である。曲は最後まで推進力を失うことなく驀進してあっけなく終結する。本作品には明らかに同じ北海道出身の伊福部昭に強く影響されていると感じられ、殊にオスティナートにおける変拍子の断続的な挿入は『ゴジラ』や『リトミカ・オスティナータ』『シンフォニア・タプカーラ』を彷彿させるものである。

【作曲者記】
 Ballata Pastoraleは田園的な野趣のあるバラードの意味で付けたタイトル−田園風譚詩曲−です。私たちの遠い祖先が大自然とのスキンシップを通して培ってきた感性や魂の歌声を現代に生きる私達の遺伝子的美観に確認したいと思い書きました。
 作者は無学無名の蛮童(自然児)の心境で、できる限り原体験的な音楽を書くように努めました。
 作品は小学校時代の恩師、板東幸男先生に捧げるものです。少年時代の記憶には、作者が学業に不熱心で、山野で昆虫を追っていたことや、先生がフォークダンスや民謡の教育に熱心であったこと等がありますが、そうした思い出の数々が月日の中で発酵して、このような曲を生み出すに至ったとも言えます。

'97 ウィンターコンサートより/解説:Yon


>>Home >>Prev >>Return >>Next