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Beyond the Skies for Mandolin Orchestra (2005)

末廣健児
Kenji Suehiro (1975.9.15 Iwakuni - )

 作者は1975年山口県に生まれた作曲家、編曲家、指揮者、マンドロンチェロ奏者。幼少よりエレクトーンを学び、高校入学後岩国高校プレクトラムアンサンブルにおいてマンドロンチェロを始めた。その後京都大学マンドリンオーケストラを経て、ARSNOVA Mandolin Orchestra、同Mandolin Ensemble、 同Mandolin Quartetにおいて、指揮者、マンドロンチェロ奏者として活躍。現在はARTE MANDOLINISTICA に所属している。演奏活動の他に、様々なジャンルの音楽をマンドリン合奏のために編曲しており、編曲者としての評価も高い。マンドリン合奏のための作曲作品としては、本曲の他に組曲「瑞木の詩」や丸本大悟氏との共作による「ARSNOVA組曲」がある。

 本曲は京都教育大学マンドリンクラブの委嘱によって作曲され、2005年、同クラブの第46回定期演奏会において初演された。
 楽曲形式はテンポの面では緩急緩の3つの部分からなるが、より詳細に見るならば、序奏-第1の主題(ここまでが緩)-第2の主題-主題の展開-第2の主題の再現(ここまでが急)-第1の主題の再現-コーダ(ここまで緩)となっている。このような形式は、序奏を除けば吉水秀徳氏のプレリュード2や丸本大悟氏の「杜の鼓動-欅の風景-」にも用いられているものであるが、本作では序奏から2つの主題、コーダにいたるまでの全ての部分に長2度下がって4度上昇する部分動機が共通して用いられており、それがより全曲の統一感を作り出している。
 曲はギターによる特徴的な下降のアルペジオに始まる。その余韻が消え去らないうちにマンドラによって全曲を統一する共通動機が提示される。その動機が幾度も重ねられつつ収束した後、Andanteの第1の主題がホ長調で奏でられる。この主題は豊かな和声にささえられたのびやかなものであって、空への憧れを表すようである。
 第2の主題はAllegroであって、ヘミオラのリズム(6/8と3/4が交錯するリズム)を多用した躍動感にあふれるもの。音階の面では教会旋法のひとつであるミクソリディア旋法(基音はホ音)が用いられている。 ミクソリディア旋法は長調系のモードであるが、和声の面では導音がないために機能和声的な意味での進行力が小さくなる一方で、旋律としては主音の上下が共に長2度となるため開放的なものとなる。このリズムと旋法の響きの両面での躍動感が空へ向かうエネルギーを示している。第2の主題の展開の後、テンポとリズムをそのままに、再び第1の主題が現れる。この部分におけるホ長調からト長調への転調は目を見張るばかりの美しさに溢れ、明るい響きと共に力を得て飛び立つ様を描いているかのようである。
 その後第2の主題が元の調で再現され、その力をそのままに第1の主題がGrandiosoで再現される。この第1の主題の再現は特徴的であってト長調で行われるが、これは中間部において得た力を表現するものであると考えられる。最強音に達した後、音楽は静寂を取り戻し、共通動機を繰り返しながら再びギターのアルペジオへと還っていく。

― 作曲者記より引用 ―

澄みきった青空、満点の星空、燃えるような夕焼け空、そして時には雨雲に埋めつくされた空。
空はいつも私達の上に広がっていて、見上げているとその広さに吸い込まれてしまいそうな感覚に私は襲われます。
〜このまま大空へと飛んで行くことができたら、どこまで行けるのだろう?
 そして、何が見えてくるのだろう?〜
そういった空への”憧れ”ともいえるイメージからこの曲は生まれました。

参考文献:ARTE MANDOLINISTICA大阪公演2008「3人の作曲家達II」パンフレット指揮者脚注

第36回定期演奏会より/解説:Kiyota