マンドリン・オーケストラの為の音層空間
(1995)
小林 由直
Yoshinao Kobayashi(1961.8.6 yokkaichi〜)

 作者は1961年三重県鈴鹿市に生まれ、15才より作曲を始め田中照通氏に師事した。四日市高校・山口大学医学部を経て、現在内科医として三重県内に勤務。山口大学医学部時代にマンドリンクラブに入部、当時より指揮に作品発表にと活躍してきた、現在斯界で最も多くの秀作を世に問うている売れっ子作曲家である。年代的にも私たちと同時代の作曲家として、常にその作品は刺激的であり、かつマンドリンオーケストラの新たな可能性の扉を開くものとして期待を集めている。1985年には、『北の地平線』で日本マンドリン連盟主催『第4回日本マンドリン合奏曲作曲コンクールにおいて第2位を受賞した。
 氏の作品の多くは、美しく叙情的な旋律と現代的な和声、リズム感の素晴らしい統合で構成されており、演奏者の実力を問うものが多い。しかしながら、そうした技術的な整合性だけを追求していったのでは作品全体の抒情性や構築感を損なう危険性もはらんでおり、演奏バランスが難しい。
 曲は大きく2つのブロックに別れる。音のタペストリーがたゆとうような前半と、特徴的なギターのリズムによって開始されるエネルギッシュな後半である。前半部分は多くの部分がpやppで演奏され、あたかも音のオーロラを観るがごとく不思議な空間が現出される。押しては引く波のごとく、連綿と続くこのたゆたいの中には後半の主題も巧みに縫い込まれている。この永遠に続くかと思われる空間の中をハープが漂いながら現れる様は筆舌に尽くしがたい程に美しい。後半はギターのパートソロによって開始されるが、突然現れるこの主題は徐々に様々な音型によって修飾され、その全貌を表す。途中全奏者によるフリーテンポの部分でも、この主題は一貫して全体をまとめる柱となっている。曲は最後まで不規則な展開を繰り返し、一瞬曲頭の上昇音型によるモチーフが現れるが、それも大きな波に飲み込まれて覆い尽くす様に全曲を閉じる。(YON)

【『音層空間』に寄せて】
 持続する音を重ね合わせて、いろいろ効果を出したい。重ねた音の微妙な移り変わっていく様子や、ある音が加わったり抜けたりすることによってハーモニーが変化していく様子を表現してみよう。そういった気持ちで作り始めたのがこの曲です。
 楽器の配置にも工夫を凝らし、空間的な効果を出せるようにしました。一般の曲と少し違った仕掛けで、「ここはどんな効果が出るだろう?」と想像しながら作っていくのは大変楽しいものです。今回はさらにハープを使用できる機会に恵まれ、ギターとひとつのグループとして、そしてそのグループのリーダー格として考えてみました。ギターというのは不思議な楽器で人数が多いから大きな音が出るとは限らない、むしろ音としては目立たなくなってしまいます。これにハープを加える事により、力強さと表現力の広さを持たせようとしました。この一味違うギターのグループが中心となり、その周囲を他の弦パートが殻のように取り囲み、中心と殻の部分が時には対立し、時には調和しながら一つの大きな世界を作っていきます。(以上 作曲者記)

第23回定期演奏会より/解説:Yon


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