序曲
(1992)
吉水 秀徳
Hidenori Yoshimizu(1961.8.7 Osaka〜)

 作者は1961年に大阪に生まれる。四条畷高校のマンドリンクラブを経て、大阪市立大学ギター・マンドリンクラブでは指揮者として活躍しながら、自作「2つの動機(モチーフ)」を指揮、発表した。卒業後は京都を本拠とするエルマノ・マンドリン・オーケストラで活躍しつつ、作曲を行っており、昨年には新作「3 dimensions」(難曲!!)を発表した。氏の作品はいずれも「わかりやすい構成」「美しい旋律」を備え、中規模の社会人・学生アンサンブルが選曲するにあたって無理の無い編成規模を取るなど、邦人オリジナル作品の様々な可能性の中でひとつの方向性を示したものとして注目を集めている。
 本曲は当クラブが20周年記念初演シリーズの一環として1991年の第19回定期演奏会で委嘱し、初演した作品で、その後若干の改訂を経て、日本マンドリン連盟主催の第5回作曲コンクールで第3位(1位なし)入賞した作品で、我々にとって最も愛着のある作品のひとつである。この連盟主催のコンクールではいくつかの曲が入賞しているが、本作品は藤掛廣幸氏の「パストラーレ・ファンタジー」と並び、最も普及を果たした作品で(入賞を果たしながら全く演奏機会が無く埋もれてゆく曲が多い中)、1987年以来氏と交流を続けてきている当クラブとしても大変喜ばしい限りである。本日は、当クラブだけが所持する「初演稿」で演奏する。

【作曲者記】
 マンドリンの世界においては、「序曲」という言葉が非常に多く用いられている。例えばファルボの「序曲ニ短調」カペレッティの「劇的序曲」、近くは帰山栄治の「歴史的序曲」「序曲」等々、数えきる事が出来ない。これらの作品はいずれも「序曲」という言葉本来の意味から離れ、導入的意図を持たずに作られており、またその形式も特に一定してはいない。するとマンドリン界における「序曲」とは、「自由な発想の基に書かれた(一楽章形式の)音楽」と定義づけても良いのではないだろうか。
 本曲はマンドリンの世界に生きつづけたいという私のささやかな決意と、そのなかで「マンドリンの為に」作られたものであるという意味合いを込めて、あえて単純に「序曲」と命名されている。
 曲は変拍子を自由に用いた重苦しいテーマと、シンプルではあるが耳に残る美しいテーマが交互に主張しあう、緩急の入り交じった中編成以上用の少し長い作品である。フィナーレにおいては軽快な全強奏のまま終わらず、残響の中マンドリンの語りかけるようなメロディで幕を閉じる。

第25回定期演奏会より/解説:Yon


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