マンドリンオーケストラの為の「水影」
"Suiei" for Mandolin Orchestra (1992)
酒井 国作

 作者は名古屋大学でギターマンドリンクラブの指揮者を務めた後、愛知県立芸術大学に進み、同大学院作曲専攻課程修了。
 学生時代より帰山栄治氏の作品の初演を手掛けるなどして頭角を現し、現在は作曲活動の傍ら、名古屋マンドリン合奏団指揮者として、国内の他、ソ連(当時)、中国でも公演を行っている。作品は初期には帰山栄治氏の影響を強く伺わせるものであったが、その後は独自色を強め、厳しい響きの中に透明感を感じさせる作品を生み出している。代表作には、序曲『平成』、『光彩』、『風籟』、『焉』などがある。
 本曲は作者の心情の赤裸々な吐露を薄いヴェールで幾重にも包み込んだ、内在的耽美の極致である。作者の作品にはいわゆる『現代性』を追求した作品、『日本的』なものを追求した作品などが知られるが、本曲はそうした作品とは一線を画した、言わば音による『モノローグ』と言えよう。傷ついた作者はその気持ちを言葉に出来ず、苦しんでいる。濁った雨水はやがて「沈殿物」と「上澄み」に分離する。この曲はいわば作者が慟哭の末にたどりついた「上澄み」に似た、清らかではないが空虚に透明な『男』として生きていく心情表明である。
 曲は空を彷徨うように始まり、ギターにあらわれる8分音符+3連符のモチーフを中心に様々な階調のグレースケールが展開していく。しかしそこには常に色合いはなく、向こう側が透けてみえるような不思議な音色があやなす。曲はやがて慟哭の時を迎えるが、これとて感情移入する事なく(senza allarg. などの指示はその現れか?)淡々と透明な世界に回帰してゆく。ここでもギターのモチーフは効果的である。一体作者はどこにたどり着いたのだろうか?

第26回定期演奏会より/解説:Yon


>>Home >>Prev >>Return >>Next