雪〜ロマンツァとボレロ〜
NIEVES 〜Romanza e Bolero〜(1910)
ジャチント・ラヴィトラーノ 作曲/中野二郎 編曲
Hyacinthe Lavitrano(? Ischia〜1938.12.16 Bona)

 作者は19世紀後期のイスキア島に生まれナポリで学んだ後、1938年12月16日アルジェリアのボーナに逝いた作曲家。作者は始めフランス人から音楽の手ほどきを受けナポリでパォレッティから和声と対位法を、そしてナポリの音楽学校でフォルトウッチに学んだ。その後多くの作曲コンクールに入賞、マンドリン音楽ではトリノでローラ序曲(イル・マンドリーノから1902年9月出版)、パリではレナ一タ(エステュディアンティナから1910年5月出版)、ミラノでは本曲が入賞(イル・プレットロから1910年1月出版)、これらはいずれもこの作者の代表作として本邦でも親しまれている。この作者の作品には、作者の定住地となったアルジェリアの明るく輝く異国情緒豊かな息吹きが感じられ、他の作者による所謂イタリアンオリジナルとは一線を画している。
 
本曲は「ロマンツァとボレロ」と言う副題が付いているが、三拍子部分のリズムは正確に言うとボレロでは無く、セギディーリャス(Seguidillas)である。セギディーリャスとはスペインに広く伝わる形式の舞曲であり、基本的なリズムは本曲のアレグロ部分のような8分・16分・16分+8分・8分+8分・8分である。
 
本曲は「作者のまだ見ぬ雪への憧れ」が曲にされたもの、と言うのが一般的な説のようである。が、筆者はそう考えてはいない。理由は以下である。
1.作者の生まれたナポリ近郊からはかのヴェスヴィオ火山を見ることができ、この山の頂には雪が積もる(ナポリ自体にも雪が降ることはあるが、こちらは極めて稀)。
2.アルジェリアは、ヨーロッパからの寒波が地中海の湿気を含み、アトラス山脈に突き当たって雪を降らせることがある。50センチも積もったことがある。
これらのことから、作者が雪を見たことがあるのは間違いないと思われる。しかるにこの曲調は?筆者はこの曲が「雪」を描いた情景的な音楽であるとは考えていない。むしろ、「雪」に纏わる事柄と言ったものに対する作者の思い〜幼い頃見たヴェスヴィオ火山の頂の雪、そこからの故郷への思いや故郷での思い出、あるいは夏は猛暑のアルジェリアの冬に降る雪、そのアルジェリアに対する思い〜を綴った叙情的な曲なのであろうと解釈している。すなわち、その叙情性〜郷愁と言い換えても良いかも知れぬ〜はロマンツァにおいて顕著であり、ボレロ(便宜的にボレロとする)においては一種アラビア風ともとれる旋律を用いることで、現住するアルジェリアの息吹を表現している、との解釈である。
 
なお、題名の「NIEVES」がスペイン語なのはスパニッシュリズムを使ったことからの着想であろうと考える。(蛇足ながらイタリア語ならば雪は「NEVE」、フランス語ならば「NEIGE」である)
 尚、本曲はイル・プレットロからの出版時はマンドリン2部、マンドラ、ギターの4部での編成となっており、小編成のアンサンブル形式での演奏を前提としている模様であるが、故中野二郎氏の手によって、マンドロンチェロ、コントラバス、及びタンバリンとカスタネットが加えられ、通常編成でのマンドリンオーケストラでの演奏が可能となっている。本日の演奏は故中野二郎氏編曲版を用いる。

第31回定期演奏会より/解説:えぞ


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